とんとんばな
トントン花
Tontonbana
野生 | 【花容】垂れ咲き 【英数】三英 【花色】青紫〜紫色 野生種のノハナショウブ 【開花時期】6月初旬〜中旬 2022年は6月7日から14日に開花 |
分類 | : | 三重県斎宮町に自生する野生のノハナショウブです。野生種ですが品種名がついています。 |
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外花被 | : | 青紫色で細く(6×3〜4cm)、大きく下垂します。肩の部分は内巻きとなり、花被片の表面に非常に細かい縮緬状構造が認められます。青紫色の細い脈が周縁部に向かって伸びています。 |
内花被 | : | 軸方向に直立しますが、水平に伸長するものも認められ、個体間で変異があります。非常に小さく(2×1cm)、水平方向に伸長している場合には横からでは見えにくい場合があります。花色は外花被片とは異なり紫色で、しばしば赤紫色のものもあります。 |
花柱枝 | : | 外花被片と同じ青紫色です。非常に細く(1cm以下)、先端部は2裂開して大きく内巻きになり、ずい弁が発達します。ずい弁の先端部は円滑の場合と、くも手が発達する場合があり、個体間で差が認められます。 |
備考 | : | 野生種で、三重県の斎宮町に自生していた個体の実生苗です。花径は5cm程度、花茎長は70〜90cmで、葉は非常に細く1cm程度です。 外花被片が大きく下垂することや、花被片表面に縮緬状構造が発達することが、他の地域に自生するノハナショウブとは大きく異なります。このホームページの写真では、下段の3枚目が伊勢系古花と一緒に撮影したもので花容が類似しています。下段の4枚目の左側が「トントン花」で、右が本州のノハナショウブですが、「大きく下垂することや花被片表面の縮緬状構造があること」で、本州の他の地域のノハナショウブと異なっています。これらの外部形態的な形質は、伊勢系の古花(栽培品種群)と類似であることを示しています。 冨野(1967)は、伊勢系の品種群の成り立ちについて、「江戸系の垂れ咲きの中から、伊勢系品種群ができた」とする説を提唱しています。特に「座間の森」(江戸系古花)のような垂れ咲き品種から成立したことを述べています。 そこで、本学で伊勢系品種群の成り立ちを外部形態、分子生物学的な知見を基に調べた結果、「トントン花」は、花器官の外部形態が伊勢系の古花と同じ構造を持っていること、花色が酷似する品種があること、分子生物学的な知見により、「トントン花」と伊勢系品種群は完全に一致し、江戸系品種群で、伊勢系に花容が似ている垂れ咲き品種の「座間の森」、「武蔵川」など、現存する江戸系古花とは全く不一致であることが明らかになりました(2020)。 これらの結果から、伊勢系品種群の成立は、これまでの冨野(1967)の説とは異なり、伊勢系の品種群は「トントン花」をはじめとした三重県の松阪地方に自生する野生のノハナショウブを使って「独自に」育成された可能性が極めて高いことが科学的に証明されました。 なお、「トントン花」の品種名は、水の流れる音に由来し、伊勢地方では「ドンド花」とも呼ばれています(冨野、1967)。野生種の場合、一般には「品種名」をつけません。しかし、園芸学では、野生種であっても花容や花色が他の地域の標準個体とは明らかに異なり、区別がつく場合には品種名が付けられます。本ホームページでは、「一迫(いちはざま)」、「みちのく小町」、「みちのく娘」などがこれに該当します。 |
文献 | : |
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