TOP > 花菖蒲図鑑 > 2〜3月、4〜5月の栽培のポイント
4月から5月にかけては、葉が著しく伸長成長する時期です。この時期は、2〜3月に花芽形成された花芽を、開花に至るまでに発達・充実させる時期になります。
開花前の作業は1.新芽が褐変化した場合の処置、2.潅水 3.施肥などが重要です。
新芽が伸長し始め、気温が20℃を超える時期には、根腐れ、または立ち枯れによる病害に気を付けます。この原因としては、通常に栽培・管理をしている場合には、1.病原菌による腐敗 2.株自体が弱い(前年の生育不良による貯蔵養分不足)などが主な要因になります。
1の場合:腐植土(特に腐葉土)が多く、病原菌が発生しやすい、あるいは連作による特定の病原菌(特に、立ち枯れ病菌)の発生などがあげられます。通常、どのような土壌にも病原菌は存在しています。よって、立ち枯れ病菌の影響が直接的な要因ではなく、「立ち枯れ病菌に侵されやすい株の状態になっている」と判断する方が正確です。予防薬を使うよりも、むしろ2の場合の対処法が適しています。気温が低い地域では病原菌による発生は少ないです。その理由は、温暖化により、夏場の気温、水温が40℃を超えることが増えて、株の充実度が劣ってきていること、立ち枯れ病菌は高温・湛水条件で発生しやすいことが主要因となります。
2の場合:前年の株の充実度が思わしくない場合(地下部の貯蔵養分の不足)には、葉の伸長成長が弱くなり、仮に葉の伸長が優れていても、それ以上の伸長成長能力を失っています。それは、発根能力が低いためであり、地上部の伸長成長能力に追いつきません。
したがって、立ち枯れを予防する対処法は、前年に株の充実度(具体的には、地下部の塊茎を太く、大きくする)をいかにして保持していくかが、栽培において重要なポイントになります。いずれの場合も初期成育の段階(葉の伸長速度が10cm程度)で発生が多くなりますが、葉が20cm以上になっても発生する場合がありますが(右から2番目)、早めに対処すれば、左右から新芽が伸長します(右)。
対処法:本学では、古花を維持・保存の観点から、何としても株の維持に注力します。他の品種でもいえることですが、葉が黄色くなってきたら1.土ごと洗い流して、根を丁寧に水洗いします。2.「無機質」の培地、例えばバーミキュライトや硬質の鹿沼土、山野草の土にします。3.発根促進剤を与えます。4.鉢の置き場所は、1日に2〜3時間、日光が当たる場所にします。日陰では葉の生育が不良となり、根の発達を阻害します。いかにして、根を充実させるかにポイントを置きます。本学では「通気性の良い場所」(網棚など)、に置き、発根促進剤を散布しならが回復を待ちます。水を貯めた状態にすると根くざれを起こします。枯れた芽の脇から新たな芽が出て成長を始めれば成功です。
この時期には、一雨ごとに葉の著しい伸長成長が見られます。また、花蕾は1日で一気に上がってきます。見えなかった花芽が翌日には見えるほどに大きく生長します(右の2つの写真)。 灌水をした分、花茎の伸長量に大きな影響が出ますので、毎日、欠かさずに灌水を行います。例えば、猛暑日の30℃を超えた場合、前の日にかなり多めに灌水をしても、翌日の夕方にはほぼ吸水しています。そのくらい、この時期には水分を要求します。ただし、株が充実していない株に水を貯めた状態にすると、根腐れを起こすので注意が必要です。
5月の中旬頃になると、葉の成長は40〜50cmになり、葉色の緑色も濃くなります。一部の早咲き品種は、花蕾が見られるようになります(右)。 5月下旬には、葉の成長量は著しくなり、60〜80cmに達します。
4月頃に薄い液肥か、化成肥料を株元に施肥します。化成肥料の場合には、施肥をした後、灌水をするようにします。そのままの状態で乾かすと、いわゆる「肥料焼け」を起こすことがあるので注意が必要です(肥料の影響で、植物体内の水分が、植物体外へと流出することが本学の研究で明らかになっています)。
4月から5月にかけては、1.新芽が出るか、2.健全な株になっているかを見極めることが非常に大切で、葉の伸長が10cm以下の段階で葉が茶色化した場合には、上記のような水洗いなどの処置が大切です。水はけを良くして毎日、灌水をするように心がけると、葉は濃い緑色となり、5月中旬以降に花蕾が上がってくる品種も見られるようになります。
参考文献:田淵俊人.2009.最新 農業技術 花卉vol.1 ノハナショウブ 農文協,東京.pp319−324