はじめに
日本伝統の園芸植物、花菖蒲は野生の「ノハナショウブ」を基にして育成されました。ノハナショウブ(Iris ensata var.spontanea Nakai)はアヤメ科アヤメ属の植物で、日本を主な原産地として朝鮮半島、中国北部、シベリアなどにも分布しています。日本では北海道から九州までのやや湿った場所に自生しています。
本学では、野生の「ノハナショウブ」を日本伝統の園芸植物、「花菖蒲」を育成した基の植物であるので、「日本固有の貴重な遺伝資源」として捉え、栽培品種の「花菖蒲」の維持・管理と同時に、野生の「ノハナショウブ」の維持・保護にも力を入れています。日本各地に自生するノハナショウブを保護するために北海道から九州まで学生とともに直接現地に行って調査を行い、収集できる場合には、管轄当局の許可を得て地域ごとにきちんと分けて地域外保存にも力を入れています。30年間に亘る調査で自生地数は約500ヵ所、保存株数は1万株にも及びます。
これらの植物を通して、1.この植物がいかにして江戸時代から現在まで、人々の心を捉えてやまなかったのか(民俗学)、2.植物学的な諸形質の解明(生態学、形態学、生理学、遺伝学、分子生物学など)、3.里地里山の保全(保全生態学) 4.水辺環境の保全の基礎的研究にも役立っています。
相模原市生物多様性ポータルサイト『特集 いきものコラム』インタビュー「生物多様性は心を潤し、文化を育む。」
最近の研究では、江戸時代に菖翁がどの地域のノハナショウブを使って品種を育成したのかについて解明するに至っています。
これまでに、ノハナショウブには変異はないと言われてきましたが、花や葉には花器官の形態や色には様々な変異が見られます。これらの変異の中から「栽培したい」と思う形と色の組み合わせで日本伝統の園芸植物「花菖蒲」が育成されたものと考えられています。
このホームページでは、全国各地のノハナショウブの中から栽培品種の育成に結びついたと思われる花器官、花の形状、花色などの変異を紹介しました。本学では、これらの変異が起こった原因などを研究しています。ただし、自生地保護のため具体的な場所の明記や、場所はしておりませんのでご了承ください。
ノハナショウブの自生地調査に関しては、特に気象条件が変化しやすい自然条件下で体力が必要です。果敢にも自生地での調査に協力を頂いた学生さんの名前を以下に記しておきます。
大学院博士課程:小林孝至 修士課程:中村泰基
監修・指導教員:田淵俊人