TOP > 花菖蒲図鑑 > 秋の栽培のポイント(地球規模の温暖化に備えて)
昨今は、地球規模の温暖化によって晩秋の11月になっても葉色が緑色のままのことがあります。花菖蒲が育成された江戸時代の気温は不明ですが、少なくとも昭和の時代には8月でも30℃を超える日は関東地方でもあまりなかったように記憶しています。本学でも、栽培管理を始めた2000年(今から21年前)は、9月には台風や秋雨前線が停滞して雨の多い日が続き、10月には晴天が続いて秋らしくなり、夜温は10℃を下回る日もありました。
10月に入りますと、葉色は茶褐色になっていたので、この時期に茶褐色になった葉を刈り取るなどの作業を行っていました。10月には充実期に入る(冨野、1990)と言われていますが、これはこの時期にできるだけ、発根を促進して夏場に劣化していた発根や株の充実を図るという意味です。
ただし、近年では11月に入っても暖かい日が続くようになりました。例えば、日中の最高気温が20℃を下回る、あるいは夜温が10℃以下になる日は11月下旬になってからという日も多くなりました。そこで、本学では従来の方法とは異なった栽培管理方法を行っていますので紹介します。ただし、この方法は本学のある東京都町田市を基準にしています。
最高気温は25℃〜30℃の日が多く、予期しない集中豪雨や台風があります。この時期は、日照不足になりがちですが、葉の色は緑色で、地上部の成育が非常に旺盛です。このような環境条件下では、発根する能力も非常に旺盛で株(根茎の肥大)も充実します。特に花菖蒲では、発根促進を行うことが地上部の充実に直接影響をしますので、雨天の日以外で日照の続く日には毎日のように灌水を行います。
最高気温は25℃になる日が多く、日照時間が多い日が続きます。この時期には、最も株が充実します。特に発根を促進したい場合には、「株の両端の葉が茶褐色化した場合、これらの葉を取り除く」ことが重要です。茶褐色化した葉の下部の根は発根しないこと、茶褐色部が増えることにより、根腐れが生じやすくなります。
この作業により、株の中央部の緑色の葉の下からの発根が促進され、根腐れを防ぐことができます。また、株の中央部から新芽が伸長し、葉の生育が旺盛になるとともに、発根率が極めて高くなります。また、夏場に弱った株を回復することができます。
昨今は、11月に入っても葉の色が緑色のことが多くなります。気温も最高気温が20℃前後の時期も少なくありません。そこで、この時期にも株の充実を図るために、乾いた鉢には灌水を欠かさず行います。
11月中旬以降になりますと、最高気温が20℃以下になることがあります。この場合には、葉の先端部から茶褐色となります。この時に、株基から葉を取り除くことなく、「茶褐色部のみを切り取り、緑色の部分を残しながら」葉を基部に向かって切り詰めていきます。これにより、光合成産物の地下部への移動量をできるだけ多くさせることで、株の充実度を増加させます。その結果、根張りが極めて良好な株を得ることができます。
気温は残暑で30℃になることも多いので、この時期には灌水を毎日行います。まだ、30℃を超える日が多いので株の消耗が激しい状態が続いていますので、水はけを良くして湛水状態にならないようにすることが重要です。鉢内の水が高温となり、根腐れの原因になります。
この時期には株の両端の葉が茶褐色になりますので、取り除きます。
右が茶褐色になった葉を取り除いた状態で、鉢内の土が見えるようになります。灌水を多めに行うことにより、株全体の生育が旺盛となり、地下部の根の張りが極めて良好となります。
2000年には、10月に入ると、葉は全体が茶褐色化していましたが、最近では、最高気温が25℃の日が多く続きますので10月は株を充実させるために最も重要な時期になります。
この時期には茶褐色化した株が目立つようになりますが(左の写真)、これらの葉を取り除くことで右の写真のように中心部分の葉がさらに大きく成長し、株が充実してきます。2000年頃までは11月に入りますと、地上部はほぼ全体が茶褐色になりましたが、昨今ではまだ株の充実を図る時期であるとみなしています。この時期には、以前とは異なって、地上部の発達に伴う根の発達促進も行われ続けますので、晴れた日には灌水を行います。
この時期でも暖冬のことが多い日が続く場合には、まだ緑色をしている葉が残っています。最高気温が20℃を下回り、最低気温が1桁になってきます。このような場合でも、葉を全部取り除くことなく、茶褐色化した部分のみを取り除き、緑色の部分を残します。この時期からは根腐れを防ぐために灌水は控えめにします。ただし、緑色の葉の部分には、ヨトウムシ(ガの幼虫)の食害を受けやすいので注意が必要です。
秋の管理作業は、地球規模の環境変化により、ますます重要となります。この時期に緑色をした葉が残っていることが多いので、害虫による食害には気を付けながら、茶褐色化した葉を切り取っておくと根の張りが充実します。今までの気温であれば、秋における作業にはあまり注意を払わなかったと思われますが、今後は非常に重要な作業になると考えられます。
参考文献:
田淵俊人.2009.最新 農業技術 花卉vol.1 ノハナショウブ 農文協,東京.pp319−324.
冨野耕治.1990.ハナショウブ.日本放送協会, 東京.pp100−107.