しせんしゅう
紫撰集
Shisensyu
伊勢系 | 【花容】垂れ咲き 【英数】三英 【花色】紫 【開花時期】6月初旬〜中旬(2018年6月8日開花、2024年は6月12日開花 |
分類 | : | 伊勢系の古花。垂れ咲きの三英花です。 |
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外花被 | : | 花容は冨野(1967)の分類によると、「富士山型」で、丸弁です(縦径×横径=7cm×7cm)。花色は、藤色で基部(アイの周辺)は青紫色、この部分から白色の筋が3本程度、花被片先端部に向かって入ります。 外花被片は大きく下垂し、肩から下方の周縁部は著しい皺が生じて内巻きとなります。開花当日の花器官は濃い紫色ですが、1日の時間の経過とともに藤色になります。 |
内花被 | : | 楕円形で幅広く、斜め上方向に広がります。周縁部はフリルが入ってやや内巻きとなり、さじ状で軸方向に著しい皺が入ります。向軸面(表面)は白色に近い赤紫色、背軸面(裏側)は薄い赤紫色です。表面の中心部には白筋が明瞭で、基部(底)の部分は白色になります。 |
花柱枝 | : | やや斜め上に立ち上がり、中央部は白色で周縁部は紫色です。先端部は2つに裂開して、時には内花被片に匹敵するほどに大きく発達した、さじ状から円形のずい弁が形成されます。ずい弁は立ち上がり、周縁部は細かい「くも手」のような鋸歯が発達します。ずい弁の色は外花被片と同様の藤色です。 |
備考 | : | 1907年(明治40年頃)に三重県松坂市で育成されたと言われていますが育成者 は不明です。他の伊勢系品種と同様に外花被が大きく発達する三英花で、外花被片が大きく垂れるのが特徴です。 本品種の特徴は、花容は、冨野(1967)の提唱している「富士型」で裾野をひく富士山のように穏やかに斜め下に向かって垂れるように見えますが、時間の経過とともに大きく下垂し、肩から周縁部が大きく内巻きが目立ちます。皺の発達が非常に著しく、開花後もこの形質は変わりません。 花径は15cm〜20pで、開花後、直ちに周縁部から萎れる品種です。したがって、強い日光に当てないこと、雨天の場合には色素が抜けやすいので、花蕾が紫色に着色した段階で、直ちに室内に入れることが重要です。涼しく保ち、鉢の下部より底面潅水(吸水)を行うと、直ちに花被片が開き、下垂していきます。花被片の質は非常に薄いです。 伊勢系の品種は、光の陰影を観賞価値にします。上の写真4枚の場合は、「一番左と左から2番目」は同じ花を撮影しています。この場合、一番左は弱い日が差している状態、左から2番目は室内でやや強い日が差している状態です。花色は藤色(やや暗い)→紫色(明るい)に見えます。 同様の写真で、「一番右と右から2番目」も、同じ花を外花被片の正面から撮影したものですが、これらはいずれも日が当たっています。しかし、左側の方がやや強い日が差した時で、花色は赤紫色(強い日が差した時)→紫色(やや弱い日が差した時)に見えます。 皺によって生じる花被片の陰影の程度も、光の強さや、開花後の時間によって異なってきます。開花後の事件の経過によって、皺が伸びた状態になる場合には、それに応じて陰影の強弱も変化します。このようにして、伊勢系の品種は独特の鑑賞法を生み出しています。 なお、花茎は細く草丈は40p程度ですが、株基が非常に弱く倒伏しやすいため、株基に小石を置くなどの工夫が必要です。根は細く、発達の程度は弱いです。そのために、株分けを行うと株が急速に弱ることがありますので、無理に株分けをせず株基を充実させてから行うことが重要です。栽培は難しい部類に入ります。 本学での2024年の研究により、皺の部分の内部には著しい空隙が発達すること、空隙と空隙の間には、タンニンが多く蓄積することが明らかになりました。 |
引用文献 | : |
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