ななこまち
七小町
Nanakomachi
江戸系 | 【英数】六英 【花色】薄青紫に紫色の吹っ掛け絞 先端部がやや垂れさがる「平咲き」 【開花時期】6月中旬(2014年は6月14日開花、2021年は6月11日開花、2023年は6月11日開花) |
分類 | : | 平咲きの六英花で、先端部がやや垂れます。戦前から育成されていた歴史の古い品種の一つです。 |
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花被片 | : | 花被片の形状は細長い楕円形で、中心部が幅広く、先端部に向かうにつれて広がる広楕円形ですが、形状には個体差があります。幅が狭い場合には、花被間は隙間が目立ちます。あるいは、基部側が強い内巻きになる個体は、花茎側の花被片間には隙間があるように見えます。周縁部はゆるやかに波打ちます。 花色は青みを帯びた藤色地で、刷毛ではいたような紫色の絞り(吹っ掛け絞りと言います)が入ります。アイの周辺の「吹っ掛け絞りの色」は個体差がありますが、基本的には青紫色で、それ以外の部分は赤紫色の「吹っ掛け絞り」となります。 外花被片になるべき、花被片では非常に大きく発達しますが、同じ位置に花柱枝が重なるようにして発達するので、花柱枝の先端部やずい弁によってアイの部分が隠されるので、この部分では黄色いアイの部分の見える範囲が少なくなります。 その一方で、内花被片になるべき花被片は、やや小さいのですが、花柱枝が重ならないので、その分、花被片の間から花被片全体がアイも含めて明瞭に見え、黄色いアイが基部(底の部分)から伸長・発達する様子が非常に目立ちます。 |
花柱枝 | : | 斜め上方向に向かって大きく発達し、先端部に向かうにつれてやや広がります。花柱枝の芯の中心線は花柱枝に沿ってやや盛り上がり、線状になります。 花柱枝の白色でしばしば青紫色の「ぼかし」が入ります。先端部は2裂開して軸方向に上向きとなり、ずい弁が発達します。ずい弁の先端部は程度の弱い「くも手」構造になり、背軸面(裏側。ずい弁は内側に向かって反り返っているので表面のように見えるのです)は藤色で、しばしば花被片と同様に藤色地に紫色の吹っ掛け絞りが入ります。 なお、ずい弁の先端部(アイの黄色い部分)や、花柱枝の間から「筒状」の藤色の花器官が飛び出すことがあります。本ホームページの後ろから2番目の写真でも認められますが、これは肥後系の品種に見られるような「樋弁(といべん)」です。 いわゆる「とさか状の」クレスト構造が発達した器官で(参考文献参照)、しばしば花被片の間から筒状になって突出することもあります。また、樋弁の先端部が花被片状に変化してずい弁状になることもあります。 |
備考 | : | 戦前に育成、栽培されていたと言われていますが、育成年代は明らかではありません。花径は15〜16cmです。本学に現存する保存株は明治神宮との共同研究で特別に譲渡を受けたものです(参考文献参照)。明治神宮の「林苑」での調査で、「菖蒲田」の土壌および水分のpHは5.5程度の、弱酸性土壌下では非常に根の発達が優れる結果が得られました。水質も流れのある溶存酸素量の多い場所です。 「七小町」は、土壌および水分の土壌pHの影響が、生育に大きな影響を及ぼします。すわなち、土壌、水分条件下で栽培すると、花茎は1m程度に伸長し、生育旺盛となります。 花蕾が葉の基部より外観で認められるのは5月の中旬ですが、それ以降は、徐々に花茎が伸長して3週間から4週間で開花に至るので、花蕾が見えた頃からは毎日、潅水を怠らないようにすると6月中旬には開花させることができます。 なお、花器官を横から見た時に、花被片がやや軸方向にもりあがるような花容の個体を「七小町」として展示・栽培をしている場所もあるようですが、この形質は本学の「七小町」とは異なっています。 なお、本学で30年間にわたって継続的に研究を行っていますが、基本的には同じ「七小町」であっても、花器官の形態や花色に個体間差、年次間差が顕著であることが明らかになってきました。 例えば、花器官の形態は、花被片が幅広いものと細長いもの(細長いものは花被片の間に隙間が目立つようになります)、花色は濃い青紫色が顕著で白色の「吹っ掛け絞り」が良く発達する個体(この場合には赤紫色の部分も見られる)と、花色が非常に淡い青紫色となって、ほとんど白色になるものなどがあります。 したがって、基本的な花器官の形態や花色は同じであっても、同じ個体から花器官の形態、花色に異なった淡い花色個体の株から、異なった品種のように見える個体が出現することがありますので、注意が必要です。このような傾向は、他の品種にも見られることが明らかになりましたので、以降、さらに継続調査を進めています。 下段の4枚はその典型で、花被片が細く、花色が淡いものと、幅広く花色が濃いものが同時に出現した例です。 |
参考文献 | : |
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