むさしがわ
武蔵川
Musashigawa
江戸系 | 【花容】垂れ咲き 【英数】三英 【花色】純白色 【開花時期】6月中旬(2014年は6月23日開花、2018年は6月18日開花) |
分類 | : | 江戸時代に育成された古花です。先端部がやや垂れた三英花です。 |
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外花被 | : | 丸弁で非常に大きく(12cm×12cm)、中心部から軸方向に大きく下垂し、周縁部は大きく波を打ったようになります。先端部は皺が入ります。 花色は基調色は純白で、日陰ではややクリーム色に見えることがあります。ごく稀に型の部分に青色の砂子模様、あるいは刷毛模様が入る場合があります。アイの先端が脈に沿って細長くのびます。 |
内花被 | : | さじ状で軸方向に直立しやや内巻になります。外花被片と同様の純白色です。周縁部には赤紫、あるいは青紫の糸覆輪が入りますが、年次によりその程度は異なり、この色が発色しない年もあります。 |
花柱枝 | : | 外花被に沿うように位置し、内花被片と同じ大きさです。外花被片、内花被片と同様に純白色でやや斜め上方向に伸長・発達します。先端部は裂開してずい弁が発達します。先端部には、細かい鋸歯が発達します。 |
備考 | : | 1890年に江戸・堀切の小高園で育成された品種と言われています。小高園は、現在の向島周辺に位置する、歴史のある花菖蒲園の1つでした。 初代の小高伊左衛門が菖翁(松平左金吾、花菖蒲の栽培品種を最初に作った人物)から花菖蒲の品種を譲り受けて育成した品種といわれ、「武蔵川」以外にも、「泉川」などの品種を育成しました。 江戸時代末期には、現在の葛飾区・堀切一帯に多くの花菖蒲園が発達し、江戸の人々の憩いの場としての行楽地となりました。小高園はその中でも人気のある花菖蒲園だったようです。 本品種は、江戸系の花菖蒲の品種の中でも銘花の1つとされています。花径は大きく広げると20p以上になります。外花被片が大きく下垂し目立ちます。 花容が下垂して皺が現れることから、伊勢系品種群の基になったとする説もありましたが、本学での分子生物学的な研究により、伊勢系品種の起源ではないことが明らかにされました。 ちなみに、伊勢系品種は、伊勢地方の斎宮自生のノハナショウブを起源として育成されています(伊勢系の項目を参照)。 花色は純白ですが、外花被片に青紫色の砂子模様が混ざる、あるいは内花被片の周縁部に紫色の糸覆輪の発達の程度には年次変化があります。 この点につき、本学で肥料(リン酸)などを施用して紫色の発現に影響するかを調べたことがあります。また、低温で開花させたこともありましたが、これらの外的要因ではないことが明らかになっています(田淵未発表、2015〜2020)。 なお、直射日光の当たる場所では白色が反射してしまいますので、写真撮影をする場合には曇り空の日を選ぶか、鉢植えで栽培している場合には、日陰に置いて撮影すると表面構造が良く撮影できるようになります。 根の発達が弱いので(根系自体は太くしているのですが)、毎年、株を維持するために、本学では極力、植え替えを控えて維持・保存に務めています。 |
参考文献 | : | 田淵俊人.2016.江戸花菖蒲の普及-わが国初の花菖蒲園・小高園の開設.「花の品種改良の日本史」 悠書館,東京.p240-241. Kobayashi,T. and T. Tabuchi. 2024. Characteristics and apprication style of Japanese irises (Hana-soyubu) 1. Edo-group and Higo group. WOTZ book. International Society for Horticultural Science. 98. Tabuchi, T. and T.Kobayashi. 2024. Characteristics and apprication style of Japanese irises (Hana-soyubu) 2. Ise-group. WOTZ book. International Society for Horticultural Science. 99. |