TOP > 研究テーマ02「花菖蒲」 > 02-1.「花菖蒲」とは? - 今後の展望
栽培品種の花菖蒲と、野生種のノハナショウブを収集・維持・保存して、まだまだ謎の多い花菖蒲=日本人の心に触れるような夢を追求する研究を展開していきたいと思っています。
1.日本の伝統的な花菖蒲品種を末永く残していこう!
これまでに、さまざまな系統の品種、特に門外不出の明治神宮や大船系を含めた江戸時代に育成されたような伝統的な品種を含めて、およそ500品種の分譲を受けて、本学の農学部温室内、温室外に管理場所を設置し、文化財として、遺伝資源として維持・管理を永久的に続けていくための手法を確立したいと思います。
そのためには、各地の植物園に許可を戴きながら調査・研究をする作業が非常に多くなっていくと考えています。
2.野生のノハナショウブの機能性を知ろう!
ノハナショウブの自生地は、近年の地球温暖化による湿原の極端な乾燥化、あるいは自生地付近の開発により、もはや北海道、本州、および九州地方の湿地や水田脇に局地的にしか分布していません。
ノハナショウブは、花型、花色に個体群による差が著しいので、地域ごとによる変異の出るしくみや、その遺伝様式、などは品種改良のための貴重な遺伝資源ですが絶滅してしまっては意味がありませんね。
近い将来、青色、赤色の珍しい花色をもつ花菖蒲が、本学の丘から誕生するかもしれません。また、塩類に強いもの、病気に強いものが発見できれば、貴重な遺伝資源として保存し、末永く利用することができます。
3.ノハナショウブを末永く保存しよう!
ノハナショウブの自生地のほとんどが保護地域でもあるので、本学では厳重な許可のもと、地域別に分離して、決して混ざることのないようにして維持・保存をしています。野生のノハナショウブは貴重な遺伝資源であるので、品種改良の素材として重要なのですが、現地以外で栽培するとむづかしいことが多いので、早めの対策が必要になります。
また、昨今の地球温暖化に対してどうなっていくのか、推移を見守りたいところです。
4.ノハナショウブの種子発芽のしくみを知る
自生地で採取可能な種子については、すでに設けてある本学温室内の育苗場にて種子発芽試験を行い、よりよい発芽条件の研究を行う技術を確立しました。育種年限を大幅に短縮することができることでしょう。
5.野生のノハナショウブ、栽培品種のハナショウブのルーツを探る
DNA含有量の異なる系統が、自生地により分布する可能性が見出されたので、染色体の核型分析などを行ってノハナショウブやハナショウブのルーツ(起源)を探っていきます。
6.野生のノハナショウブと栽培品種のハナショウブの花弁細胞の変異
花菖蒲の花は単一の色で構成されているのではなく、さまざまな模様があります。1つの色ではなく、筋が入っていたり、ぼかしや刷毛が入っています。
そこで、光学顕微鏡を使って花被表面細胞をスキャンでして、花被片の表面細胞の構造、色素の含有に違いをビジュアル化していきます。
7.江戸時代の浮世絵と古文書による花文化の解釈
国立国会図書館、葛飾区郷土と天文の博物館、明治神宮に保存されている、ハナショウブの描写されている浮世絵や古文書から、当時の人々の花への関心を調査します。
日本人がどうしてこの花を愛してやまなくなっていったのかを考察し、今後の研究に役立てます。
8.ノハナショウブが塩を排除するしくみを知る
ノハナショウブはもともとは、海岸線にあったものが次第に内陸へと追いやられていったと考えられるので、塩類に対してどのような反応を示すか調査します。
9.夢にチャレンジ!
まだまだ、やることがたくさんありますが、よくわかっていない植物ですので、随時発見された時点で研究したいと思っています。以下は夢ですが、きっとかなえられることと信じています!
A:花の色や形
真っ青な色の花菖蒲
真っ赤な色の花菖蒲
真っ黒な色の花菖蒲
花被表面がピカピカ光る花菖蒲
英数(花被の数)が違う花菖蒲
B:開花期
1.1年中咲き続ける花菖蒲
2.特に「5月の端午の節句に開花する」品種の育成―季節感の追及
C:環境抵抗性
1.地球温暖化に対処できる花菖蒲(新宿の高層ビル屋上に花菖蒲を栽培している例がある)
2.屋内外の環境汚染物質を浄化してくれる花菖蒲(室内や高速道路わきに)
3.塩害にめっぽう強い花菖蒲
D:耐病害虫性
絶対病気にかかならい、放置しても育つ花菖蒲
これらの研究の中には非現実的と思われるものもあるかもしれませんが、夢では終わらせたくありません。長期的な視野で、地味ではあるけれどもしっかりとした基礎研究の上に成り立つものだと思います。
そのためには、常に正しい「素材」(自生地ごとに混ぜない、品種を間違えない)を維持・保存して絶やさないこと、有用と思われる「機能性」を見つけ出す「眼力」を持つこと、品種、ノハナショウブであれば産地や自生地の環境も記録に残しておくこと、そして、いつでも材料が供給できるような「遺伝子銀行、gene bank」を作って日々永久的に管理しておくことがもっとも重要です。しかし、それ以上にもっとも必要なこと-それは植物を栽培して育てる「心」だと思っています。