TOP > 研究テーマ02「花菖蒲」 > 02-1.「花菖蒲」とは? - 花菖蒲に魅せられた私と卒論を行った学生の声
学生たちと一緒にノハナショウブを見に行ったときのことです。目の前でやさしい紫色をした花たちが右に左にと揺れ、やさしい風が頬をくすぐる…。
花菖蒲園で栽培品種の花菖蒲を観賞しても、吹いて来る風はやはり同じ…。ノハナショウブや花菖蒲はあたりの空間を自身の色でそっと包み込んでしまうかのようなやさしさがあります。そのようなやさしい風と空間を研究・教育の現場で感じて、そして学生たちとともに新しい風を創造していきたい。そのためには、学生たちにはまずやさしい風を感じ、風の醸し出す流れに触れて卒業して欲しい、そんな無垢な願いだけであっという間に3年が過ぎていきました。
この間にノハナショウブや花菖蒲を卒業研究テーマに選んだ学生は延べ15名を数え、来年度もすでに希望している学生、また本学初のノハナショウブ専門の大学院生が誕生ます。国内外での大きな学会にも相応数の発表を連ねてくることができました。
研究者・教育者は、時として社会的責務を果たすためになすべき最低限の立場やルールに縛られなければなりません。しかし、植物を扱っている場合には何をすべきでしょうか?それは花が醸し出すやさしい風、それを感じる心、受け入れる寛容で素直な優しい心を有する人物になることであると思います。
こちらから花に立ち向かっていこうとするならば、花は必ずや口を閉ざすことでしょう。花々が発しているいろいろな「風」を感じ取ろうとしる心さえあれば、自ずから花はたくさんのことを教えてくれます。花は見るものでなく、そっと見せてもらうものなのでしょう。
世界中に美しい花はたくさんあります。その中でもノハナショウブや花菖蒲が発する風は特にやさしく感じます。そのようなところが、日本が世界に誇るべき花であることの所以なのではないでしょうか?
本年から、研究室に新たな風が吹き始めました。これまでの野生種のトマトの研究に加え、ノハナショウブと花菖蒲をわが国固有の遺伝資源、文化財として捉えていくという大変ありがたい風です。これらの成果は、協会の皆々様が暖かい眼差しがあってこそ成し遂げられた賜物に他なりません。我々を美しき世界へ導いてくださった諸先輩の方々には心より感謝申し上げます。
なお、以下の学生たちの文章は私が手をつけたものはほとんどありません。彼らの文章力や言い回しよりも、吹いてくる「風」をぜひ感じ取って欲しいと思います。
自宅でも花菖蒲を栽培しています。自宅の庭は狭いですが、玄関の外まで、はみ出るくらいに花菖蒲の鉢が品種ごとに分けて所狭しと置いてあります。近所の方々にも喜ばれるようにしたいと思っています。
学生とともに野生のノハナショウブ自生地で調査する著者(中)。爽やかな風を感じるひとときです!
私は、大学3年生になるまで花菖蒲という植物を知りませんでした。花菖蒲を初めて知ったのは、先輩が卒業研究論文で取り組んでいたことからでした。そして、私が花菖蒲の魅力とりつかれたのは、6月に田淵先生に誘っていただき、大船植物園の展示会に行ったことでした。そこで、初めて咲いている花菖蒲を見ました。群れて咲いても良し、1花で咲いても優雅や迫力がある。大きさや形はもちろんのこと、何より私が惹かれたのは花菖蒲の色でした。
今まで私がよく目にしてきた花は、チューリップやコスモス、バラ、などピンクや赤などの暖色系の花が多く、明るさを感じました。しかし、花菖蒲は紫色や群青色など寒色系が多いにもかかわらず、花の優雅さや暖かさを感じました。そして、その中で特に私の目をひいたのは、大船系品種群の「薄雲」でした。色、形がその時の私にはとても気に入りました。
そして、私は大船種の花菖蒲について春の園芸学会で発表し、卒業研究論文に取り組みました。今でも「薄雲」は私の1番のお気に入りです。卒業研究論文に取り組みはじめ、私は自分の手で初めて花菖蒲を育ててみて、さまざまなことを感じることができました。「酒中花」などさまざまな品種を育てましたが、毎日花が咲くか心配で心配でたまりませんでした。
丹精込めて育てた花菖蒲が咲いたときは本当に、本当にうれしくてたまりませんでした。
1つの花は3日間しか咲きませんが、花が開花したときの感動は3日間以上のものがありました。
花菖蒲に出会ったまだ2年、育てて1年が経ち、私はまもなく卒業しますが、学校で育てたお気に入りの品種の花菖蒲を自宅に持ち帰り、これからも一生花菖蒲を育てていけたらと思っています。
(左)私が一番お気に入りの品種「薄雲」(大船系品種) (右)園芸学会で発表した論文要旨です。
明治神宮「林苑」にて担当の指導員より説明を受ける
神奈川県立フラワーセンター大船植物園と共同で、80年前に育成された花菖蒲の「大船品種群」の調査を行っています。日本花菖蒲協会の栽培のプロの会員より植え替えの技術を学び、ご満悦の著者(左から2人目)。