TOP > 研究テーマ02「花菖蒲」 > 02-1.「花菖蒲」とは? - ハナショウブの学名は?植物分類学上の分類方法はどうやって決める?
「いずれがアヤメかカキツバタ」ということわざがあります。アヤメとカキツバタは非常に良く似た植物です。アヤメは乾燥地帯でも育ちますが、カキツバタは湿地や沼地でないと生育しないという違いがあります。ハナショウブはどうでしょうか?
確かに湿地でも育ちますが、カキツバタとは開花の時期がずれていたり、葉や花の形状が異なっています。
したがって、アヤメ、カキツバタ、ハナショウブという3つの群は、(明らかに区別できるので)、基本単位として「種」として区別します。
ほとんどの人が区別に関心がなく、一緒のものと思っているでしょう。しかし、別の種類ですので覚えておきましょう。
花菖蒲が育つのに適した場所(花菖蒲は水に浸かっていては育ちが悪く、水に浸かるか浸からないかの微妙なところに適しています)。花菖蒲園に行くと水に浸かっていることが多いのですが、冷涼感のある風情を出すためにそうしていることが多いのです。水に浸けたまま栽培するとほとんどの花菖蒲が枯れるようです。
(左)サトイモ科のショウブこれを「菖蒲湯」に用いる (中)カキツバタ:花被片の元に白い筋がある (右)アヤメ:花被片の元が網目模様
(左)アヤメのあやの目の拡大:網の目の部分の細胞が特徴的 (中)ノハナショウブ:花被片の元が黄色い(栽培種も同じ) (右)イチハツ:家の屋根にも植える
ハナショウブの世界共通の学名としては(学名の詳細はトマトの項目をごらんください)、
Iris (属名) ensata (種小名) Thunb. (命名者)
※Thunb.とは:植物学者Thunbergが省略されている形。
といいます。
ハナショウブは、栽培品種として非常に品種数が多いので、植物分類学上では栽培品種(cultivar, 略してcv.)を用います。
栽培品種とは、人為的に作出した小さな変異である、何かの形質で明らかに他とは明らかに区別され、繁殖によりその特徴が維持される栽培植物の集団をいいます。
花では、栽培品種名を含めて栽培植物命名規約に従って、「属名+種小名+品種名」の3つを連記します。
そして、種の命名者を種小名と品種名の間におく形をとります。これを三命名法と呼んでいます。
【例】ハナショウブの品種「薄雲」の場合
Iris (属名) ensata (種小名) Thunb. (命名者) cv. Usugumo (品種名)
※属名と種小名はイタリック
品種名は、’Usugumo’と表記してもよく、命名者を略して以下のような表記されることも多いです。
Iris (属名) ensata (種小名) ’Usugumo’(品種名)
※属名と種小名はイタリック
花菖蒲の栽培品種、「薄雲」 上記の学名の品種の花です(大船系)。
さらに、後述しますが、ハナショウブは「江戸系」「肥後系」「伊勢系」「大船系」など、その由来によってさらに園芸的な分類をしていますので、そのあたりは他の花とは異なります。日本伝統の植物たる所以でしょう。
この場合は、学術的には「ハナショウブ」と標準和名はカタカタで表記すべきですが、ここではあえて「花菖蒲」と漢字で表記することにしました。
なお、ハナショウブのもとになった、野生のノハナショウブの学名は、園芸品種であるハナショウブが先に学名がつけられたために、ハナショウブの学名が基準種になり、野生のノハナショウブが変種として扱われることになりました。
【例】ノハナショウブの学名の書き方
Iris (属名) ensata (種小名) var. spontanea (変種名) Nakai (命名者)
※var.と命名者以外はイタリック
野生のノハナショウブの群生地
【参考文献】今西英雄. 2000. 花き園芸学. 川島書店, 東京