2011年6月23日(木)から25日(土)までの3日間にわたり、脳科学研究所において、「玉川大学脳科学トレーニングコース2011」が開催されました。このトレーニングコースは、脳科学の発展と普及を目的として、脳科学を志す学部学生、大学院生、若手ポスドクを対象に、学際的な研究手法の基礎と応用を実習で学んでもらうことを目指して今回初めて企画されたものです。
「ラットの先進的マルチニューロン記録と解析法」(礒村宜和)、「霊長類の神経生理学的実習」(鮫島和行)、「ヒトのfMRI基礎実習」(松元健二、松田哲也)、「視線から解る赤ちゃんの不思議」(佐藤久美子、岡田浩之、梶川祥世)の4つの実習コースに計100名近い応募が寄せられ、そのうち書類審査で選ばれたラット・コース5名、霊長類コース5名、ヒト・コース6名、赤ちゃんコース10名の計26名の受講者が参加しました。
第一日目は、開会式にて木村實所長の挨拶、講師陣の紹介、注意事項の説明などの後、さっそく各コースに分かれて実習を開始しました。その日の夜には、大学内の朔風館食堂で、受講者と講師陣はもちろん、他の研究者やポスドク、大学院生も多数参加して、懇親会を盛大に催しました。受講初日の緊張感が解きほぐれた受講者たちも、あちこちで遅くまで話が盛り上がっていました。
第二日目は、各コースともに朝から夕方までみっちりと実習をおこないました。その晩には、あるテーマを巡って異なるコースの受講者が知恵を出し合いグループ・ディスカッションを試みる「Jam Session」が理論神経科学研究者の酒井裕准教授の主導で開催されました。今回は動物の認知的不協和に関する問題をテーマにして、どのグループも夕食時まで熱い議論を続けて、異分野交流の夜を楽しんでいたようです。
第三日目は、午前中に実習を終えて、脳科学研究所内に掲げられている塚田稔名誉教授の油絵の前で修了式をとりおこないました。木村實所長の挨拶の後、受講者一人ひとりに修了証が手渡され、絵を背景に全員の記念写真を撮りました。3日間の実習期間を無事に終えた受講者はみな笑顔にあふれていました。
ラット・コースでは、まず一日目にラットの頭部手術の一部始終を見学し、二日目にはマルチニューロン記録の総括的な解説の後、実際に行動課題を遂行するラットを使ったマルチニューロン記録の実演を見学しました。シリコンプローブやプリアンプを間近に見て、テトロード電極の作製も体験しました。三日目にはコンピューターを使ったスパイク・クラスタリングの手順を実習しました。
霊長類コースでは、一日目に霊長類の行動・神経活動の計測法や、電極の固定・刺入法、課題トレーニングの手順、頭部固定手術の手順などの具体的な講義がおこなわれました。二日目には、鮫島研究室、木村研究室、坂上研究室の協力のもと、各々の実験室における研究活動を見学しました。三日目にはスパイク・ソーティングの手法やPSTH、情報量解析、ROC解析などの行動と神経活動の相関を調べる手法を学びました。
ヒト・コースでは、まず一日目に受講者全員が順にfMRI実験の被験者になり、実験デザインや撮像パラメータやリアルタイムのデータに関する説明がありました。二日目にはSPMを使って各自が脳活動データを個人レベルで解析しました。自分自身の脳活動データに線条体や前頭葉の活動を見出すことのできた人が多く、アクチベーション・マップが表示されると歓声があがりました。三日目は受講者6名分の解析データを合わせて集団レベルでの解析をおこないました。
赤ちゃんコースでは、一日目にトビー・テクノロジー・ジャパンの協力で非接触型視線記録装置(Tobii)の講義と実習をおこないました。二日目の午前中に赤ちゃんラボで3人の乳児を対象とした調査を実際に体験し、午後には計測したデータを使って視線データの統計処理手法を学びました。また、サルの眼球運動の研究で有名な関西医科大学の中村加枝先生に眼球運動の仕組みを神経生理学的な知見から詳しく解説いただきました。三日目にはヘッドターン・プリファレンスという手法の解説の後に、実際に乳幼児を対象とした調査に参加しました。母子相互作用の調査結果についての紹介もありました。
受講者の皆さん、3日間の実習お疲れさまでした。今回の脳科学トレーニングコースにより、一人でも多くの受講者が将来の脳科学の担い手となって活躍してくれることを心から期待しています。
主催: | 玉川大学脳科学研究所 |
共催: | 玉川大学大学院脳情報研究科・工学研究科・グローバルCOEプログラム、文部科学省科学研究費補助金「ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明」 |
後援: | 文部科学省科学研究費補助金「包括型脳科学研究推進支援ネットワーク」 |
協賛: | 小原医科産業(株)、(株)ニコンインステック、(株)フィジオテック、トビー・テクノロジー・ジャパン(株)、バイオリサーチセンター(株) |