日時 | 2006年3月4日(土) |
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司会 | 坂上雅道 (玉川大学学術研究所 脳科学研究施設) |
人間や一部の動物のコミュニケーションは、単純な刺激ー反応の連合だけでなく、1) そこにないものをイメージし、それを操作する能力、2) 脳内イメージやその操作を、適当な音声などの符号と連合する能力、3) 相手の脳内イメージの操作のため必要な符号系列を生成する能力、に支えられています。本発表では、これら、言語・コミュニケーションに必要な機能が、大脳 皮質の自己組織化とベイズ推定、大脳基底核の強化学習、小脳の内部モデルなどの計算機構により、いかにしたら実現可能なのかを考察しました。
私たちは通常、一連の思考過程を経て行動の目的やその実現プランを形成した後に、行動を起こします。したがって、行動を実現する過程において、抽象的な思考と具体的な行動という異なったレベルの神経メカニズムが存在するとみなされます。様々な行動課題を遂行している被験者の前頭葉から記録された神経細胞活動を例に挙げながら、抽象的な思考と具体的な行動を支える神経メカニズム、さらにはこれらを橋渡しする神経メカニズムについて議論しました。
生物が、その生存のために刻々と変化する外部環境に適応していくためには、過去に経験した事象から得た知識のみから行動を固定的に選択するのではなく、それを組み合わせたより柔軟な行動選択によって新奇事態に対応していかなければなりません。推論は、こうした柔軟な行動選択にとって必要な能力であり、思考の中核をなす脳の高次機能です。今回は、推論を「過去の経験によって形成された連合間の統合によるもの」と捉え、前頭前野のニューロンネットワークにおける「連合の連合」を可能にするメカニズムを単一ニューロン記録実験の結果を中心に議論を展開しました。
チンパンジーにおける「人工言語」の研究が衰退してかなりの年月がたちます。21世紀の現在に「チンパンジー」で「シンボル」の研究を再び立ち上げることにどのような意義があるのでしょうか。このことを考え、前進するためにも、過去のチンパンジーでのシンボル獲得の研究の成果とその問題点、そして積み残された問題を洗い出しする作業が必要でしょう。今回の発表では、京都大学霊長類研究所において展開されてきた「アイプロジェクト」の成果を軸に、シンボル獲得の過程、シンボルと事物の間の等価関係の(不)成立、関係性の理解、シンボル処理と知覚処理の相互作用、等について検討を行いました。
子どもはことばの意味を自ら推論することによって学習します。しかしこの推論は外延の一事例からそのことばが他のどのような事例には適用でき、他のどのような事例には適用できないかを決定するという論理的には不可能な推論なのです。本発表では一事例からの語(つまりカテゴリー)の推論がどのようなメカニズムで行われているかについて議論するとともに、その前提としてどのような推論機構がbuidling blocksとして必要なのかを考察しました。