日時 | 2006年10月13日 |
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発案者 | 豊巻敦人(北海道大学) / 加藤裕貴(玉川大学) |
私たちは日常生活において、意識的にせよ無意識的にせよ、行動の際に適切な運動が実行されたか、そして適切に環境が変化したかどうかを予測、評価している。この過程はセルフ・モニタリングの一部をなしており、これらに寄与する神経活動を反映する事象関連電位成分が近年、注目されてきている。事象関連電位は脳波の一種であり、言語、知覚、高次認知処理や運動処理に寄与する皮質活動をミリ秒レベルの高い時間分解能で捕捉することができる。
事象関連電位のError Feedback Negativtiyは、セルフ・モニタリングの神経基盤・情報処理の様々な側面を探求できる指標です。
この行動の予測と評価を反映する事象関連電位成分のうち、反応選択課題において刺激を見て正反応を計画したにも関わらず、誤反応してしまった場合、反応直後に生じる成分をError related negativity(ERN)と言う。これは実際の運動遂行によって抹消神経から戻ってくる感覚フィードバック情報と、行動遂行によって遠心性コピーという運動内容についての情報とのミスマッチを反映すると考えられている。また、行動遂行によって働きかけた環境が変化する際、期待に反する結果が生じた場合にはError feedback negativityという成分が生じる。例えば、ギャンブルゲームなどで行動遂行した後、金銭の損失などの結果が呈示された際に出現する。いずれの成分も、前部帯状皮質という情動と認知に寄与する脳部位から出現していることが知られており、期待情報と反応情報・環境からのフィードバック情報の比較照合と情動的評価処理がほぼ同時刻にこの部位で行われていると考えられている。
私はこれまで、後者のError feedback negativityについて、被験者に呈示する結果の情動的価値や、結果の予測に対する確信を操作したり、他者の行動の結果が自分に帰属する場合での振舞いなどといった、この成分の基礎的な側面を明らかにする検討を行ってきており、今回はそうした研究を紹介したい。
また、Error feedback negativityは多様な領域で応用できる可能性を持っている。例えば、私が行っている精神疾患患者を対象とした研究では、統合失調症患者ではこの成分の振幅が低下しており、自己の行動によってもたらされた環境の変化に対する自己関与性の低さを反映していると思われた。他方うつ病患者では振幅が増大しており、期待不一致の評価に対する情動的反応が過剰という病的な悲観的認知を反映していると思われた。このように、精神疾患の精神病理を神経科学的に裏付けられる可能性がある。また、Error feedback negativityが強化学習の報酬予測誤差信号の神経活動を示しているという報告や、乳児(6〜9ヶ月児)において文脈に反する環境変化が起こった場合に出現するという報告があり、計算論的神経科学や発達研究に応用できる可能性があり、それらについても論じたい。
ミツバチのモデル生物としての利用は今後さらに加速すると思います。
ミツバチは、古くから人間に利用されてきた。現在ミツバチは、養蜂における蜂蜜などの生産物利用だけでなく、記憶・学習実験のモデル生物になるなど、農業以外の面でも広く利用されている。さらに近年、セイヨウミツバチのゲノム解読が終了し、遺伝子の機能を解析する面でも、ミツバチの利用が期待されている。
ミツバチは昆虫であるため、その脳の構造は脊椎動物に比べ小型で比較的単純である。それにも関らず、複雑な行動や学習行動を示すため、ミツバチに対する興味は尽きない。今回は、ミツバチの学習実験方法である、条件刺激と無条件刺激を組み合わせた古典的条件付けによる連合学習を中心に、ミツバチがモデル生物として利用されるようになった概略について紹介したい。さらに、ミツバチの分子生物学における応用についても紹介したい。