日時 | 2006年7月25日(火) |
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発案者 | 原 健二(東京学芸大学)/ 高橋英之(北海道大学) |
クロオオアリのコロニーラベル認知の学習には、神経系の発達が必要です。
動物が社会生活を営むには、仲間の認識能力は不可欠である。社会性昆虫のアリでは、巣ごとに異なり且つ巣仲間に共通する体表の炭化水素分子群の混合パターン(コロニーラベル)を巣仲間の識別に利用するため、羽化したばかりのアリが社会に適応するためには、さまざまな刺激の中からコロニーラベルを認知し、自らの体表炭化水素成分をそれに合わせることが絶対要件となる。我々は、クロオオアリで顕著に観察できる、羽化後まもない時期に遭遇した体表ラベルを「巣仲間」として刷り込むプログラム学習に注目し、その能力の脳基盤を明らかにしたいと考えている。今回のセミナーでは、これまでの我々の研究から明らかになりつつあるクロオオアリの脳の特徴についてお話ししたい。
自閉症においてみられる社会的な不適応は相手の行動が確実に読めないという状況にうまく対処できないためと考えられる。
近年、人間や動物が自己や他者の心をどのように理解しているのかを調べる研究(心の理論研究)が盛んである。その結果、心を理解する為に重要な認知過程や、それらを支える脳部位についての理解が進んできた。しかしこれらの研究の多くは、独立したモジュールとして心を理解する機能を捉える傾向が強く、エラー認知や行動決定など、心の理解だけに特化しない他の認知過程の研究との関係が不明瞭であった。そこで本研究では、じゃんけんのような単純な対戦ゲームを題材として用い、自分の対戦相手を「心を持った人間」だと思っている場合と「心を持たないコンピュータ」だと思っている場合で、被験者のゲームにおける行動決定がどのように変化するのか、共通の指標にもとづいて分析した。その結果、実際には同じコンピュータの対戦相手とゲームを行っているのにも関わらず、対戦相手が「人間」か「コンピュータ」かの主観によって、一貫した行動決定の違いが被験者に生じることを示した。この結果は、心を持った他者が存在するかしないかで、行動決定にかかわるパラメータのようなものを調整するメカニズムが我々の脳内に存在することを示唆する。また他者の心を理解するのが苦手であると考えられている高機能自閉症の方でも同様な課題を用いた調査を現在行っており、それらの予備的な結果から示唆されることについても述べる。