脳情報システム研究室
脳の講義

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■脳の構造

私たち人間は、さまざまなことを考えたり、食事をしたり、運動をしたりすることが出来ます。そのような知性や感情、意志、行動は全て脳に支配されています。そのような重要な役割を担っている脳の中はどのようになっているのでしょうか。
  • 脳は、神経細胞(ニューロン:NEURON)が凝縮された巨大なネットワークで構成されています。

  • 神経細胞(ニューロン)への情報伝達は、約100mVの電位(神経パルス ※神経細胞の発火)によって行われています。



  • 脳は以下の様な特徴を持っています。

    • 脳の重さ
    • 大人:1200~1500g(体重の約2.5%)
      新生児:370g~400g(体重の約10%)

    • 神経細胞(ニューロン)の数
    • 約1000億個


  • 脳は機能的な働きの違いからおおまかに大脳・小脳・脳幹に分けることが出来ます。
    • 大脳
    •   重さが約800gあり、言語・思考・感情・記憶・感覚などの機能的中枢として働いている。

    • 小脳
    •   重さは約130gで、大きさは大脳の1/10以下である。大脳の後ろの下の部分にぶら下がるようについている。小脳は、平衡感覚と筋肉運動の中枢であり、 力や距離などの誤りを修正し、スムーズな運動を行うために必要不可欠な部分となっている。

    • 脳幹
    •   重さが約220gで、さまざまなホルモンを分泌したり、呼吸や、心拍の調整、唾液の分泌などにも関わっている。このように脳幹は生命維持の中枢を担っているのである。


脳の構造とニューロン(神経細胞)




■神経細胞の基礎

  • 脳の中には無数のニューロン(神経細胞)が複雑なネットワークを形成しています。

  • このニューロン(神経細胞)は樹状突起細胞体軸索で構成されています。

    • 細胞体
    •   細胞体は球形に近い形で、DNAを含む核があり、その周囲を細胞質が囲んでいる。

    • 樹状突起
    •   細胞体や軸索など木の枝のように伸び、他のニューロンと接してシナプスを形成している。

    • 軸索
    •   細胞体から長く伸びた構造をしており細胞体からの情報を末端に伝える。

    • シナプス
    •   細胞体や樹状突起が他のニューロンと接する部分(情報の伝達を行う部位)。シナプスでは、神経伝達物質によって情報が伝えられる。


ニューロン(神経細胞)の構造




■記憶の種類と海馬の関係

  • 記憶:新しい経験が保存され、その経験が意識や行動の中で再生されることをいう。

  • ワーキングメモリ

  •   情報を整理し統合する脳のなかの作業台としてワーキングメモリというものがある。
      ワーキングメモリの機能によって、利用される情報が記憶に携われている部位である海馬に伝えられたり、すぐに記憶した情報が消失するものも多くある。


記憶の種類




■Hebbの学習則


      "When an axon of cell A is near enough to excite a cell B and repeatedly or persistently takes part in firing it, some growth process or metabolic change takes place in one or both cells such that A's efficiency, as one of the cells firing B, is increased."
    Donald Olding Hebb (1949)


    -神経生物学の仮説-
      「細胞Aの軸索が細胞Bを発火させるのに十分近くにあり、繰り返しあるいは絶え間なくその発火に参加するとき、いくつかの成長過程あるいは代謝変化が一方あるいは両方の細胞に起こり、細胞Bを発火させる細胞の1つとして細胞Aの効率が増加する。」
    ドナルド ヘブ(1949)

      これはドナルド ヘブ博士が提唱した学習に関する有名な理論で、Hebb仮説(Hebbの学習則ともいう)と呼ばれています。Hebb仮説を解説する動画を掲載しています。


Hebb仮説(Hebbの学習則)




■セル・アセンブリ

  ニューロン同士の活動相関は多数のニューロンを繋ぐ膨大なルート、すなわちシナプス結合の中から特定の結合が選ばれて働いています。
  セル・アセンブリとはヘッブの学習則の提唱者であるドナルド・ヘブ博士が唱えた機能的シナプス結合に関する仮説で、表現する情報に合わせて短時間の間にON-OFFを繰り返し、 特定のニューロン集団が特定の情報を表現するために次々と形成されていくことを意味しています。これを電気回路に例えるなら縦横無尽に張り巡らされた配線の中から特定の経路だけを選び電流を流すということです。
  セル・アセンブリの主な特徴は2つあります。これら2つの特徴についてセル・アセンブリの動画を見ながら考えてみましょう

  • 1.重複(neurons overlapping)

  •   動画はセル・アセンブリのモデルを説明しています。ある記憶情報には細胞群Aが、別な情報には細胞群Bが、さらに別な情報には細胞群Cがそれぞれの情報を表現する"基本コード"として働いています。
      まず、ニューロンの活動について見てみると細胞群Aと細胞群Bの重複部分に属しているニューロンはどちらの情報の処理中にも、それらの情報に関連した特異的活動を示しています。 また、重複していないニューロンは細胞群A、細胞群B、細胞群Cいずれかの情報処理中にのみ特異的な活動を示しています。
      セル・アセンブリの利点と1つとして、情報をコードするニューロン群の重複が起こることでより多くの情報をコードすることが出来ることがあげられます。


  • 2.能的シナプス結合の変化による回路自体の動的な変化(connection dynamics)

  •   細胞群A、細胞群B、細胞群Cは学習が進むにつれヘブの学習則やSTDPなどによりシナプス結合の変化が起こります。
      このシナプス結合の変化は、情報をコードする細胞群を変化させます。このような回路自体の動的な変化によって脳はより柔軟な情報処理が出来ると考えられています。


セル・アセンブリ




■STDP(スパイクタイミング依存性のシナプス可塑性)

  ヘブの学習則では細胞Aから入力した後、細胞Bが発火すると細胞Aと細胞Bの結合(シナプス結合)が強まるというものでした。 この現象は実験的にも確認されており、長期間シナプス結合が強まることを"シナプス可塑性の長期増強(LTP:Long-term potentiation)"と呼ばれています。一方で長期間シナプス結合が弱まることも確認されており、 この現象は"長期抑圧(LTD:Long-term depression)"と呼ばれています。

  最近の研究では細胞Aから入力と細胞Bの発火のタイミングによって細胞Aと細胞Bのシナプス結合でLTPLTDが生じることが報告されています。この現象は スパイクタイミング依存性のシナプス可塑性(STDP:Spike-Timing-Dependent synaptic Plasticity)と呼ばれ、学習関係するメカニズムの1つであると考えられています。
  スパイクタイミング依存性のシナプス可塑性の詳しい説明については動画を見てください。



スパイクタイミング依存性のシナプス可塑性




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