館蔵資料の紹介 2024年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2024年 > 慰めの聖母マリヤ
板 テンペラ 縦31.0×横25.5cm
ロシア 1800年前後
幼児イエス・キリストを抱く聖母マリヤの姿を描いた聖母子像。聖母マリヤは首を左にかしげ、左手を頬にあてて物思いに沈んでいるような表情である。幼児キリストは、マリヤの顔を見上げ、巻物を開いて両手に持っている。巻物には「正しい審判がくだる時、恩寵(おんちよう)と慈悲がもたらされる」とあり、マリヤの右肩上には「我が悲しみを癒し給え」と記している。
聖母子像の図像はビザンティン帝国(東ローマ帝国)の時代に起源が求められ、東方正教会の広がりとともに各地でさまざまなタイプの聖母子像が生み出された。ロシアでは聖母子を描いたイコン(聖像画)が数々の奇蹟を生み出したとされ、信徒たちからとりわけあつい崇敬を集めることになった。
このタイプのイコンには、17世紀末に瀕死の女性が夢に現れた聖母の導きによって、モスクワの聖堂にしまい込まれていたイコンにたどり着き、病が癒されたという奇蹟の物語が伝えられている。聖母マリヤの物思いに沈む悲しげな表情には、人々の祈りに同情をもってこたえる慈しみがあらわれている。