館蔵資料の紹介 2023年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2023年 > 夕暮れの母子
鈴木 満 画 キャンバスに油彩
縦72.7×横53.3㎝ 1970年前後
月明かりに照らされた夕暮れ時の街角に、まなじりを下げた大きな目で正面を見据える女性が、幼子(おさなご)を抱いて立ち尽くしている。聖母子を思わせるが、憂愁を帯びた表情は、画家の心に沸き立つ情念を表出しているかのようである。
鈴木満(みつる)(1913−1975)は、静岡県田方郡中狩野(なかかの)村(現伊豆市)に生まれ、1928(昭和3)年に上京して太平洋画会研究所、太平洋美術学校に学んだ。以後、太平洋画会と官展を中心に活躍。戦後は示現会(しげんかい)に設立会員として参加し、日展にも出品した。1948(昭和23)年に青木純子と結婚、玉川学園7丁目にアトリエと住まいを構え、玉川大学出版部発行の書籍の挿絵など、玉川学園にかかわる絵画制作もおこなった。
月と母子を描く作品は、晩年を代表するシリーズである。鈴木は後半生、肺結核や肝炎による長期の闘病生活を余儀なくされた。療養後の1968(昭和43)年3月に渡欧、約1年半、パリを拠点に各地の風土と人を描き続けた。そうした経験が、母子の姿に自らの心情を投影したかのような作品につながったのだろう。