館蔵資料の紹介 2023年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2023年 > 斎藤実筆蹟
紙本墨書 掛軸装 縦122.3×横36.8㎝
1935(昭和10)年
「時を待ち、分を守り、機を知り、欲を寡(すくな)くす」
線の太さに変化が少なく、はねやはらいが柔らかく、几帳面さが感じられる楷書体の筆者は、岩手県の水沢で生まれた軍人・政治家の斎藤実(さいとうまこと)(1858-1936)で、皋水(こうすい)と号した。
斎藤は海軍に入ると、戊辰戦争の敗者側ながら、薩摩閥が幅を利かす組織にあって海軍省勤務が長く、中枢で要職を歴任し、次官を7年、海軍大臣を8年務めた。海軍を退いてからは朝鮮総督、枢密顧問官を務め、五・一五事件後には、第30代首相に就任した。斎藤は挙国一致内閣を組織し、2年強にわたり国政を担当する中で、一時文部大臣も兼任した。首相辞任の翌年には内大臣となったが、2カ月後の二・二六事件で反乱部隊に襲撃され、非業の最期を遂げた。
本書は、首相辞任後に重臣として、昭和天皇を支えていた時期のものである。斎藤は、多くの揮毫(きごう)依頼に誠心誠意応えたとされ、これもその一つであろう。内容は慎重にチャンスに備えつつ禁欲を説くもので、穏健で粘り強く、几帳面な斎藤の、軍人及び政治家としての人生の指針であったのかもしれない。