館蔵資料の紹介 2023年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2023年 > 平櫛(ひらくし)田中(でんちゆう)筆蹟
紙本墨書 額装 1967(昭和42)年
縦134.5×横34.5cm 岡村孝三郎氏寄贈
木彫家の平櫛(ひらくし)田中(でんちゆう)(1872-1979)は、現在の岡山県井原市の出身で、昨年が生誕150年であった。本名は田中倬太郎(たくたろう)、平櫛家に養子に入り、後に旧姓を号とした。大阪で木彫を学んでから上京し、西洋の彫塑(ちようそ)も学ぶ。仏像の需要が減り衰退した明治時代の木彫界にあって、生活面では苦労しつつも売り物を意図せずに制作に励み、具象彫刻で独自の作風を築き上げていった。後年、帝国美術院会員、帝室技芸員、東京美術学校・東京藝術大学教授を歴任し、文化勲章を受章した。彫刻界の長老となっても、満107歳で大往生を遂げるまで、創作意欲は衰えることがなかった。
写真は田中が数え96歳のときの書で、上部に「不老」と大書し、その下に頼まれるとよく揮毫(きごう)した「いまやらねばいつできる わしがやらねばたれがやる」の語句が3行、平易な仮名書きで記されている。田中の書としてはまた、「六十七十ははなたれこぞう おとこざかりは百から百から わしもこれからこれから」というものも、よく知られる。生涯現役の心意気と、それを実現した長命にあやかりたいものである。