館蔵資料の紹介 2021年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2021年 > 受胎告知
イコン、板にテンペラ 制作年代不詳
縦31.9×横26.8㎝
「ガスパール・カサド 原智恵子コレクション」所収
ガリラヤの町、花の場所とも呼ばれるナザレに暮らしていたマリアのもとに、天使ガブリエルが遣わされた。マリアの図像の中で「受胎告知」(「聖告」)の場面は、神が人間のからだに宿る「受肉」(インカルナティオ)というキリスト教教義における重要性から広く描かれた主題のひとつである。
回廊(ロッジア)風の空間において、似通った衣服を纏って並列に描かれたマリアと天使ガブリエルは、荘厳な印象が与えられる。神の使いとして左手に笏杖(しやくじよう)を携え、右手を上げて祝福を告げるガブリエルの姿は初期ルネサンスの絵画によくみられる様式である。神託を受けたマリアは読書を中断して、喉元と胸を押さえて驚きのポーズを取り、俯いた姿であらわされている。
画面上部では、神がマリアの腹部に向けて、天使とともに鳩の姿をした聖霊を降臨させる受肉直前の様子が描かれている。このマリアの近くにみえる井戸は、エデンの楽園で「生命の樹」の根元に湧いた泉、すなわち生命の源を象徴している。