館蔵資料の紹介 2021年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2021年 > 加爾均(カルキン)氏庶物指教
加爾均 著 黒澤壽任 訳 文部省 印行 内田芳兵衛 翻刻
縦18.6×横12.6㎝ 1882(明治15)年
明治初期の日本ではアメリカ合衆国の教育手法を導入し、掛図と呼ばれる教授用絵図や教科書に描かれた事物に関して教師が生徒に様々な質問を行う「問答」という教科があった。その「問答」の基となる教授法が「実物教授」(Object Lessons)である。 今回、紹介する資料は、そうした「実物教授」教授書のひとつで、教育者カルキンズ(Norman Allison Calkins 1822-1895)が著したPrimary Object Lessons for Training the Senses and Developing of Children: A Manuel of Elementary Instruction for Parents and Teachersの翻訳書である。この翻訳書の初版は1877年である。
本書の緒言には「児童ヲ教導センニハ先ツコレニ物品ヲ與(あた)ヘテ目撃手持シ漸(ようや)ク其オ(ママ)力ヲ揚発(ようはつ)セシムヘキコトヲ論(さと)ス」とあり、実物を通した教育の重要性を唱えている。また、別の箇所では、教師と児童の会話を通して、その子の知性を啓発し、事物に関する観察力を深め、言語表現力を豊かにするように説いている。こうした手法は今日においても対話型鑑賞教育などの美術館での鑑賞教育にみられるものであり、その意味において「実物教授」は博物館教育の基礎的理論であるともいえよう。