館蔵資料の紹介 2015年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2015年 > 小供風俗 千手観音
宮川春汀画
秋山武右衛門発行 木版色刷 大判錦絵
縦37.0×横24.9cm 1896(明治29)年
千手観音とは子守をする際の遊びの一種で、小さい子を背中合わせに背負って連れ歩くものである。背負われた子どもは、普段のおんぶのときとは逆向きの眺めに大いに喜んだことであろう。明治の東京に残っていた、近世の江戸における子守風俗である。
背中合わせにするのは、かつて剝き出しの状態、あるいは厨子(ずし)に納めた状態の仏像を1人で運搬する際、突起や扉が背中に当たらないよう後ろ向きに背負っていたことに由来する。子を背負って外を歩き回る際は「千手観音拝んでおくれ」と、繰り返し唱えた。これはそのように唱えながら仏像を背負って、家々を門付けしてまわり、喜捨を求める者がいたのを真似したものである。作品の中では、年長の女児が幼児を背負って拝ませる遊びをしている。
子守の遊びの姿から派生した競技にも、千手観音と呼ばれるものがあった。これは、1人を背中合わせに背負った状態の2組が、陣地の境界線を挟んで向き合い、背負われた者同士が乱暴にならない程度に組み合い、相手を落とすか自陣に引き込むと勝ちとなるゲームであった。