館蔵資料の紹介 2012年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2012年 > 虎の見世物(仮題)
一龍斎芳豊(いちりゅうさい よしとよ 初代 歌川芳豊) 画
鶴亭秀賀(かくてい しゅうが) 文
1枚 大判錦絵
和紙 木版色刷
辻岡屋文助 版
万延元(1860)年7月
縦37.0×横25.5cm
幕末の万延元年5月、生後半年、全長7尺余の子豹(ひょう)を、オランダ商船が横浜に連れてきた。これを入手した者が、7月下旬から江戸の西両国で見世物にしたところ、連日数万の見物人が押しかけ、小屋の周辺は立錐の余地もなかったという。
本図は公開と同じ月に発行され、江戸町民の珍獣への関心を、速報性をもって大いにかき立てたものと思われる。
生餌(いきえ)の鶏の生々しさに対し、豹は尾の長さや体毛の柄など、写生の面で不十分な点もある。しかし、獣舎の造作をはじめ、近代的な上野の動物園開設に22年先行する段階での、猛獣の飼育展示方法を知ることができて興味深い。
「虎の見世物」とは、画面右上の解説文を踏まえた仮題である。野生の虎や豹がいない日本では、当時これらを絵画や毛皮でしか見ることができなかったため、縞柄のものを雄(おす)虎、斑点柄のもの(実際は豹)を雌(めす)虎とする誤った認識が、一部に普及していた。本図もこうした誤解によるものであろう。