館蔵資料の紹介 2009年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2009年 > 櫛・笄
長野県小諸地方採集
鼈甲・貝・珊瑚・金
明治時代
櫛:高さ5.5×幅9.8×厚さ0.5cm
笄:長さ16.6cm
奈良時代に各種の装身具が廃れた後、近世末期に欧米などから再導入されるまで、アイヌ民族などを除き、日本では装身具がほとんど発達しなかった。その中で例外的な存在であったのが、江戸時代中期以降の髷(まげ)を結った女性の髪飾りであった。
櫛(くし)は髪をといたり梳(す)いたりするための必需品であるが、実用の道具のほか、本例のように結い上げた髪に挿す、装身具としての飾り櫛もあった。笄(こうがい)もまた髪に挿した飾りである。本資料の製作は明治時代に下ると推定されるが、近世以来の姿をよくとどめている。鼈甲(べっこう)製で、螺鈿(らでん)や珊瑚(さんご)、金による図柄を、象嵌(ぞうがん)技法で飾っている。婚礼に関わるものであったのか、鴛鴦(おしどり)がデザインされている。
古代中世、神宮に奉仕する齋王(さいおう)の伊勢への群行に先立って、天皇が皇女などである斎王の髪に「別れの御櫛」を挿す、告別の儀式を行った。このように櫛を贈ることには、別れを象徴する意味も含まれている。