館蔵資料の紹介 2007年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2007年 > 能面「十六」
髙津紘一 作
髙津紘一氏寄贈資料
撮影/斉藤雄致
少年のあどけなさの残るこの面は、平敦盛(たいらのあつもり)の相貌を表したとされ、「十六(じゅうろく)」とは、敦盛がわずか16歳で源平の合戦において戦死したことに由来する。能の演目「敦盛」「経政(つねまさ)」などの修羅物で、年若い公達(きんだち)や武将の面として用いられる。
能の「敦盛」「経政」は、軍記物『平家物語』を題材とした世阿弥の作とされる。経政は敦盛の兄。ともに須磨の浦の一の谷に命を散らしている。
「経政」が修羅に落ちた自らの苦しみを語り、その姿を恥じる様を強調するのに対し、「敦盛」は霊となって後に、自分を討った源氏の武将・熊谷直実(くまがいなおざね)と再び出会い、弔いを受け入れるという風雅と無常を表現する。
熊谷直実は我が子と同じ年ごろの敦盛の首を泣く泣く切り落としたことで深い悲しみと無常観にとらわれ、出家している。菩提を弔うために一の谷を訪れると、そこに敦盛の霊が現れて、平家の栄華と滅亡を語り、戦いのありさまを思い出し、最後に直実に回向を願い出て消えていくのである。気品に満ちた面からも怨みは感じられず、むしろ若武者の可憐さが描かれている。