館蔵資料の紹介 2007年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2007年 > 能面「童子」
髙津紘一 作
髙津紘一氏寄贈資料
撮影/斉藤雄致
少年の面にはいくつかの種類がある。「十六(じゅうろく)」「喝食(かつしき)」は人間の美少年。「猩猩(しょうじょう)」は酒に浮かれて戯れる妖精。そして、身の丈ほどもある長い黒頭(くろがしら 仮髪(かはつ))をつけた出立(いでたち)で現れる「童子(どうじ)」は霊的な存在である。
透き通るような白い肌に、ひと筋ひと筋丹念に描かれた前髪が映え、少年の可憐さのなかに大人びた表情をのぞかせる不思議さと、神秘的な風姿をただよわせる。
能のなかでも勇壮で豪華な演目「石橋(しゃっきょう)」は二場に分かれ、童子は前シテ(前半部分の主役)として登場する。
仏跡を訪ね歩いた寂昭(じゃくしょう)法師が仙境・清涼山(しょうりょうせん)へとたどり着く。法師が石橋を渡ろうとすると、童子が現れ、その先は文殊菩薩の浄土であるという。昔の高僧でさえ、この橋を渡るには難行苦行したもので、仏力を得た者だけに許されると戒め、しばらく橋のたもとで待てば、やがて菩薩の来臨があるでしょうといって、童子は立ち去るのである。
「童子」はほかに、平安時代の坂上田村麻呂征夷大将軍の功績を描く「田村」や、「天鼓(てんこ)」「大江山」などの演目で、いずれも神性を帯びた役柄に用いられる。