館蔵資料の紹介 2007年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2007年 > 能面「孫次郎」
髙津紘一 作
髙津紘一氏寄贈資料
撮影/斉藤雄致
「孫次郎(まごじろう)」は金剛流(こんごうりゅう)に伝わる代表的な女面である。金剛流の流祖につながる金剛右京久次(こんごううきょうひさつぐ 俗名・孫次郎、室町時代末期に活躍したといわれる)が若くして亡くなった妻の面影をしのんで打ったとされる。本面(ほんめん)は「おもかげ」の銘で伝えられるが、作者名から今日まで「孫次郎」と称されてきた。
女性が主役となり、その美を主題にした幽玄の世界を演じる能の三番目物には「小面(こおもて)」が多く用いられるが、これに代わり金剛流では「孫次郎」を、観世流(かんぜりゅう)では「若女(わかおんな)」を、宝生流(ほうしょうりゅう)では「増女(ぞうおんな)」をそれぞれ用いてきた。現在では流派にこだわらず使用されている。
「孫次郎」は成熟した優美さを感じさせ、「小面」がうら若い無垢の乙女を表現するのに対し、やや年かさの人妻の落ち着きと柔和な面持ちで、理想の女性像を表している。
亡霊となってなお愛しい人への永遠の思慕を語る「松風(まつかぜ)」ほか、『伊勢物語』に題材をとった「井筒(いづつ)」、『源氏物語』からの「野宮(ののみや)」などの演目のシテ方の面として幅広く用いられる。