館蔵資料の紹介 2001年
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「後醍醐天皇宸影(しんえい)」
『歴史科教授用参考掛図』第一輯
東京帝国大学文科大学史料編纂掛著作
発行・明治40(1907)年10月
46.0×59.0cm
歴史教育、また学習の上で、人物の事績についてふれる際、肖像画の果たす役割は大きい。たとえば織田信長の生涯や行動を知るにしても、文章による説明に加え、愛知県長興寺所蔵の草色の裃姿(かみしもすがた)の肖像画が、人物のイメージをより深いものにする。歴史上の人物について、その名前を聞くだけで我々の脳裏に浮かぶ肖像画というものがある。そのような肖像画の普及に大きな役割を果たしたのが、本掛図である。掛図とは、授業の際に黒板や教室の壁に掛けた大判の図画のことで、最近では視聴覚機器の発達から、地図などを除きあまり見られなくなってきている。
この掛図シリーズを編集発行したのは、東京帝国大学文科大学史料編纂掛(へんさんがかり)(現在の東京大学史料編纂所)である。明治40(1907)年から大正9(1920)年の間に、順次全12輯(しゅう)が作成された。1シリーズ12枚組で、ある出来事の場面を描いた歴史画を2枚ないし4枚含むこともあるが、その他は肖像画で、描かれた人物は110名におよぶ。各シリーズとも冒頭に1~2枚の天皇像を配し、その他は将軍や武将、公家、賢婦人、僧侶、学者、画家などで構成されている。
史料編纂所は、歴史研究の材料となる文書・記録類を校訂編纂し、史料集として公刊することを主目的とした研究所である。史料収集の際には、文字で書かれたもの以外に、各所に伝来する画像史料を、模写という形で集めている。こうして集めた肖像画の中から選んだものを、木版によって極彩色で印刷したのがこの掛図である。
本シリーズ刊行以前、民間発行の歴史掛図の中には必ずしも学術的に正確とはいえないものもあり、初等・中等教育の現場でそれを使用すると、児童生徒の間に誤りが広まることから、学術的根拠のしっかりした掛図を作ろうというのが、本掛図シリーズの編纂趣旨であった。足利尊氏や武田晴信(信玄)など、その後の研究の進展から現在では別人とされる画像も含んでいるが、当時から学術的裏付けを欠く肖像画は、たとい国史教育上大きく取り上げられる人物のものであっても、採用しないという姿勢が貫かれていた。当館では第8・9・12輯を除く9シリーズを所蔵している。