館蔵資料の紹介 2000年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2000年 > 小原國芳筆蹟「雲は龍に従い、風は虎に従う」
小原國芳(明治20-昭和52)筆
紙本
墨書
双幅
縦173.4×横84.4cm
ここに掲示した小原國芳の書は、中国の『史記』の、「伯夷列伝第一」にある「雲從龍 風從虎」がその出典である。古来、東洋では勢いのよい竜虎は、書や絵のモチーフとして数多く描かれてきた。西暦2000年は、辰年とあって新春の展覧会でも目にする機会が多かった。
水戸光圀は18歳のとき、伯夷・叔斉兄弟の伝記に感動し、兄頼重の子をあとつぎにする決心をするとともに、今まで嫌いだった学問にも励むようになったと伝えられている。そして光圀は、日本でも『史記』のような立派な歴史書があれば、後世の人々を発奮させることができるにちがいないと考え、30歳のとき、『大日本史』という397巻という膨大な修史事業に着手した。これは代々継承され、完成までに250年の歳月を要した。
諸橋轍次博士は、「雲從龍 風從虎(聖人作而萬物覩)」の一節を「雲のあるところに竜は躍り、風の吹くところに虎はうそぶく。すべて物は、同じ類のものが互いに呼応するものだ。してみると聖人の作(おこ)るときにのみ、万物は世に現われて繁栄することであろう。」と解説しておられる。小原國芳がこの書を起筆した背景には、どんな不遇と悲嘆があり、また立志への転機があったのであろうか。この書は司馬遷が「天道、是か非か」と自問した境地を越えて、「反対の合一」の妙有を流麗なる筆勢で表している。