館蔵資料の紹介 1999年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1999年 > 読書入門 -国語教科書編纂史上の画期的労作-
ここに紹介する『読書入門』(明治19年9月文部省編輯局発行)は、明治の模範的初歩教科書で、小学校入門の最初の半年間に読み書きを学ぶための入門書で、「よみかきにゅうもん」と読む。
『読書入門』の著者は、当時文部省編輯局で伊沢修二局長のもとで教科書の編纂をしておられた湯本武比古(ゆもとたけひこ 1857-1925)である。彼はドイツのボック著作のフィベルやレイゼブゥフなど国語学習の入門書を参考に自分の創意を加えて作ったといわれ、簡単で基本的なものからはじめて、しだいに複雑な文字や文章へとみちびいている。
例えば入門の最初は仮名であるが、これについては片仮名が直線よりなっているところからこれを先にし、平仮名は曲線よりなっているのでこれを後にして、学びやすく、書きやすいように教材を配列し工夫している。教材はすべて仮名文字であるが、これを三部に分け、片仮名の部、平仮名の部、片仮名、平仮名の部として編纂し、片仮名の部の教材では、「ハト。」「ハナ。トリ。」「キリ。カンナ。」「ナシ。クリ。ミカン。」「ウメサク。トリナク。エヲカク。ホンヲヨム。」というように単語はわずかに八語、句はわずかに十句、そして文章に移っている。
これはそれまでの雑多な単語の羅列であった単語篇的方法を一掃したもので、画期的な編輯である。時の文部大臣森有礼(もりありのり)は、この『読書入門』を読み、非常に好意を示したといわれる。明治の教育が、国民の資質向上にかかわる初等教育に厚く政策の力を置いたことが、こうした小学教科書にも反映している。