館蔵資料の紹介 1998年
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『よみかた三』国民学校教科書
今年も8月15日が過ぎました。53年前のあの日から日本はガラガラと音を立てて変わっていきました。
あの年(昭和20年)の9月、2学期の始業とともに学校も変わらなくてはなりませんでした。特に教科書は、それまでの記述には当然のことながらあきらかに不都合な箇所がたくさんありました。しかし、空襲の連続で焦土と化した日本では、とても新しい教科書の編纂や印刷などにまで手が回るはずもありません。そこで窮余の策として考え出されたのが写真にあるような切り取り(不適切な部分を切り捨てる)と、墨塗り(不適切な部分を墨で塗りつぶす)でした。この写真の教科書は昭和18年1月15日翻刻発行の国民学校2年生用の『よみかた三』です。この頁は「25、日曜日の朝」という題です。内容は興亜奉公日の記事(昭和16年から大詔奉戴日に名称変更しているのですが)のため全文削除されています。裏面の記事を生かす必要のある頁は墨で消し、両面が関連記事のところは1枚そっくり切り取られています。
当館には本物の墨塗り教科書と、復刻版の墨塗り教科書、それに墨塗り以前の教科書とその教師用指導書が相当たくさん収蔵されています。また、翌昭和21年度には暫定教科書として、新聞紙のような1枚もの、いわゆる折り畳み教科書(先生の指示で生徒たちがいくつにも折り、折れ目の必要箇所をナイフやはさみで切り、薄い1冊に仕上げる)も各教科のものが収蔵されています。
戦前、戦中は教科書は非常に大切にされ、授業開始時には各自机の上の教科書にいっせいに黙礼をしてから静かに開くものでした。それが或る日、先生の指導で、たっぷり墨を含ませた筆で塗りつぶすのですから、当時国民学校2年生の私も大変奇異な思いをしたことを覚えています。