館蔵資料の紹介 1998年
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有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)とは、縄文土器のうち口縁の直下に横位の鍔を貼り付け、その周辺に幾つかの小孔を穿(うが)ったものをいう。本資料は東京都町田市の清水台遺跡より採集されたもので、口径14.7cm、推定復原された胴部下半を含め高さ16.8cmになる。直立する口縁下部に鍔が巡り、5つの小孔が穿たれている。なお土器自体は無文であるが、器表面に赤色顔料(ベンガラ=酸化第二鉄)の付着が認められる。顔料は器表面全体に塗られていたのか、あるいは何か文様が措かれていたのであろう。製作された時期は、元来器壁になされる穿孔が鍔部へのそれに移行していることから、比較的新しい中期後葉と考えられる。
有孔鍔付土器は縄文中期に作られ、主に関東から中部高地にかけて分布するが、その用途については未だ定説を見ていない。通常の土器とは異なる形態であること、彩色されたり特殊な文様が施されるものがあることから、特別な用途の土器であったと考えられる。民族例から土器の口に革を張って太鼓としたとする説や、縄文中期に農耕が行われていたとして種子容器説も提示されている。しかし現段階で最も広く受け入れられているのは、酒造用の容器とする説である。これは有孔鍔付土器の中からヤマブドウの種子が検出された出土例を根拠としている。キイチゴやヤマブドウなどの漿果(しょうか)をつぶして、ワインのような酒を作ったのであろう。
この赤く塗られた土器で醸(かも)した酒を、縄文人はどのようなとき、どのようにして飲んだのであろうか。