館蔵資料の紹介 1996年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1996年 > 行灯
(左)角形行灯
縦37×横37×高84cm
(中)丸形行灯
径34×高79cm
(右)有明行灯
縦25×横24×高33cm
灯火の下で読書をするのに適した時期を迎え、その明かりのひとつに室町時代中期から電灯が普及するまで使用された行灯がある。
「あんどん」と読むのは、室町時代に禅家が好んで用いた宋音による。
もとは字が示すように行く灯火、携帯用の灯火具として持ち歩かれたが、灯台(油皿に灯油を入れ、灯心を浸して燃やす台)の火が裸火のため風で消えやすく不安定であったので木で框(わく)を作り、周りに和紙を貼って風を防いだことにはじまる。しかし江戸時代になると蝋燭(ろうそく)を使う提灯の出現で、行灯は主に室内に置いて照明器具として使用された。
行灯にはその形から角形行灯と丸形行灯に大別され、明かりの調整ができるような特殊な行灯を有明行灯という。本館ではいずれも収集しており、一般に京と江戸では好みに相違があるように、江戸では角形の行灯が多く、京風は華やかさのある丸形が多く見受けられる。
角形行灯
框や台座には杉材が使用され、全体に朱が塗られている。和紙を貼った火袋は長方形で前部は上下させて油皿の出し入れ等が容易にできるように工夫されている。台座には灯心や発火道具を入れたと思われる小引き出しがあり、台上には漏れた油を受け止める山水画の措かれた瀬戸物の行灯皿が置いてある。
丸形行灯
丸形行灯は江戸時代初期に小堀遠州が考案したといわれ、別名遠州行灯ともいう。
框や台座の全体に漆が塗られ、定かではないが桐材が使用されているようである。和紙を貼った火袋は円筒形で台座には溝が刻まれ、円筒形の框を回すことによって明かりを調整することができる。台上には火皿に油を注ぐための油差しが置かれ、台座には灯心や発火道具を入れたと思われる小引き出しがある。火皿は釣り手と同じ鉄製で中心より吊られており、多少ゆれても安定している。
有明行灯
名称の由来は、夜明けの空に残っている細い月を有明月といい、この言葉が転じて寝室などで終夜点灯し続ける灯火を有明行灯と呼ぶようになったと思われる。
有明行灯は蓋と火袋に分かれ、蓋は杉材に煤で黒く塗られた立方体、左右には大小の三日月形、正面は丸く満月を模ったように切り抜かれている。終夜点灯するときは火袋に蓋をかぶせ、切り抜きから洩れる火の向きを変えることによって灯火の明かりを調整する。また火袋の台として使用する時は、重なる部分を溝でしっかり固定させ、持ち運びもできるように工夫されている。