館蔵資料の紹介 1996年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1996年 > 利根山光人「仮面の男たち」
油彩
カンバス
昭和59(1984)年制作
131×162cm
利根山光人氏寄贈資料
この油彩画は全体が白っぽい画面に、デッサン風に描かれた3人の仮面をつけた男と、大小の4つの仮面を配したものであり、寒色系の青を基調にしながら橙や黄色がアクセントに使われていて、あっさりした色調なだけに異様な仮面の形象が目を引く作品である。副題にあるようにメキシコで実見した仮面踊りの印象をもとに描かれたものであろう。
利根山光人(大正10年~平成6年)とメキシコとの結びつきの発端は、昭和39年9月に開催された「メキシコ美術展」にあったとのこと。私もこの大掛りな現代メキシコ絵画の紹介展を観たが、リヴェラ、オロスコ、シケイロスらの荒々しい強烈な画面はいまだに記憶に残っているものの、ヨーロッパ絵画の洗練さからはあまりにも掛け離れていてなじめなかった。ところが利根山は昭和34年メキシコに渡り、現代のメキシコ絵画には失望するが、代りに古代マヤ文明の造形と出合い引き付けられる。その後も度々訪れマヤの文様を拓本に取ったり、その神話をモチーフとした油彩画やリトグラフを沢山制作している。昨年、世田谷美術館で「利根山光人展-太陽と古代そして永遠への憧憬」と題する回顧展が開催されたが、そのなかでは「雨神チャックの世界」(昭和36年)が傑作と言ってよいだろう。
ここで私事を述べさせて頂くならば、私が利根山コウジンという一風変った名前を知ったのは、昭和31年の読売アンデパンダソ展に出品された佐久間ダム・シリーズの「いけにえ」を観て感銘した時だったと思う。そこですぐさま学生身分の特権で図々しくも世田谷のアトリエを訪ね、学園祭のスライド用にいろいろ作品の写真を撮らしてもらった。今にして想えば長軀痩身のその風貌はメキシコ人そっくりで、後年メキシコに惹かれたのも分かる気がする。