玉川大学教育博物館 館蔵資料の紹介(デジタルアーカイブ)

教育博物館では、近世・近代の日本教育史関係資料を主体とし、広く芸術資料、民俗資料、考古資料、シュヴァイツァー関係資料、玉川学園史及び創立者小原國芳関係資料などを収蔵しております。3万点以上におよぶ資料の中から、月刊誌「全人」にてご紹介した記事を掲載しています。
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館蔵資料の紹介 1996年

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民芸品となった藁沓とかんじき

民芸品となった藁沓とかんじき

(上)会津地方(福島県)のかんじき
(下)鶴岡地方(山形県)のスリッパ式藁沓

暮らしの道具として日常生活に密着したものの一つに靴がある。靴は歩く時にただ足の保護だけを目的とした時代から文化が進むにつれ、必要に応じて色々な機能を持たせ、また作る喜びを知ることよって様々な姿形の靴が作られた。その代表格に雪国で愛用された藁沓とその上に付けるかんじきがある。

藁沓
藁で編んだくつ。「雪ぐつ」とも呼ばれるが、地方によって呼び名は様々である。
藁沓の起源は定かではないが、平安末期に完成した草履(ぞうり)や草鞋(わらじ)の編み方を基本として雪国で作られるようになったと考えられる。現在でも中国北部の一部で使用されているが、日本のほうが雪質、地形、用途等によってその土地特有の形がうまれ種類も多く、本館では降雪量の多い東北・北陸地方で使用された藁沓を収蔵している。
種類には爪掛けのあるスリッパ式、短靴式、長靴式の三種があり、主にスリッパ式は近距離の履物として、短靴式は雪中での作業に、長靴式は遠方へ出掛ける時に使用された。それは素材の性質から藁は保温性に優れ、また雪の積もった道や結氷した道を歩くのに滑らなかったからである。しかし近年になって地下足袋、運動靴、キャラバンシューズ等の出現で使用されなくなってしまった。

かんじき
かんじきは別名「ゆきわ」また「わかんじき」と呼ばれ、深い雪の上を歩く時に輪の部分で体重を分散させて歩きやすいように工夫されて作られた藁沓の上につける道具。
かんじきを作る方法は、材料である木の枝やかずらを火や熱湯で輪の状態に加工して綱で引き締めて作る。
一本の材料を輪にしたのを単輪形、二本の材料をつないで作られたのが複輪形と呼び、輪の形には円形、楕円形、船形、ひょうたん形等がある。一般に単輪で円形は平らな場所を歩く時に使用され、前後に細長い船形やひょうたん形は山の斜面を歩くのに使用される。また楕円形で複輪形は、二本の材料を各々円形にして前輪に軽い素材を使用し、前輪を軽くすることにより後輪に重心が掛かるので山の傾斜を登るのに都合がよい。
いずれも雪国の生活必需品として生まれ、各家庭で使用された藁沓とかんじきのような生活文化財は珍しくないので骨董的、芸術的な価値はないが、素朴な美をもち何時でも収集できるのが最大の強みであった。しかし現在では日々失われる運命にあり、かんじきは現在も使用されているが、藁沓は雪国の民芸品として室内のインテリアの一部となり、民芸品となったものを民俗資料として収集せざるを待ない一面もあり残念である。

「全人」1996年3月号(No.573)より

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