館蔵資料の紹介 1995年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1995年 >イコン「聖三位一体」
16世紀ロシア
板
テンペラ
33.0×28.2cm
仏語のイコン(英語ではアイコン、ロシア語ではイコーナ)は、ギリシア語のエイコーン(εικων)に由来し、これは一般的に似像、イメージを意味する。しかしギリシア正教においては、エイコーンは祈りの対象である聖像を指す。それは、神や聖人のイメージ、つまり絵というよりも、端的に神や聖人の顕在する聖像なのである。ギリシア正教において何時ごろからエイコーンが描かれたのか審らかにしない。モーセの十戒に像を造ってはならない(出エジプト記20)とあるため、初期キリスト教の時代には存在しなかった。最初は恐らく単に聖人の名前を板に書いて、それに祈ったのではあるまいか。実際イコンは描かれるものではなく、修道僧によって書かれるものであり、その伝統的な書式が受け継がれてきた。ともあれ中世末期にビザンチン帝国から東欧諸国、なかでもロシアへとギリシア正教が浸透し、信徒が増大していくについては、イコンが大きな役割りを果した。
わが教育博物館はかなりの数のイコンを所蔵しているが、ここに掲げたものは最も古いもので、16世紀のロシアで製作されたと推定されるものである。この聖三位一体のイコンは、父なる神に子なるイエスと聖霊が帰一して、三者が一体であるという教義を書いたものであり、中央に座っている天使が神の子イエス・キリスト、画面左の天使が父なる神、右端の天使が聖霊をあらわしており、3人の天使がみな朱色の衣を着ていて、三者が一体であることを示している。図像も画材も描法も、もとより伝統にのっとったものである。