館蔵資料の紹介 1994年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1994年 > 堅山南風「武者小路実篤氏像」
昭和30年制作
129×90cm
堅山久彩子氏寄贈資料
まずこの的確にして堅実な描線に注目されたい。顔と手に肌色、頭髪と椅子に薄黒の淡彩が施され、両手の間から覗いているノートの表紙の青がアクセントとなっているのだが、この単色図版ではその清爽な色彩感覚は窺えない。しかし色彩ぬきで描線だけでも十分鑑賞に価すると思う。この描線は対象を把える写実の線でありながら、同時に対象を存立させている自立的な線なのである。色を一面に塗るのが洋画(油絵)なら、日本画は元来描線で成り立つものであり、この点から本作品は日本画の正統を継ぐものである。
堅山南風(明治20年~昭和55年)は昭和33年日本芸術院会員となり、昭和43年文化勲章を受けた日本画家であるが、昭和29年から一時期かなり肖像画を描いている。この方面での傑作は師匠横山大観を描いた「大観先生像」(昭和32年)であろうが、それ以前に描かれたこの文学者武者小路実篤の肖像画も秀作といってよい。
もとより南風の画題で多いのは花や鳥や鯉などの魚である。もう2年近く前になるがたまたま山中湖高村美術館で南風の素描をまとめて鑑賞する機会があり、改めてその緻密にして端正な描写に感嘆したのであった。