館蔵資料の紹介 1993年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1993年 > 『教師必読』カステール訳(明治10年版)
(左)『教師必読』表紙 チャールズ・ノルゼント著 ファン・カステール訳 文部省 明治10(1877)年
(右)同書第一書 19.5×14.3×2.6cm
本書は、アメリカ人チャールズ・ノルゼント(Charles Northend)の著「Teachers Assistant」1859を、1873年版によってオランダ人ファン・カステール(Van Kasteel)が訳したものです。
この書は明治10年以降、多くの人々に読まれ、わが国の教育界に及ぼした影響は大きいものでした。体系的ではなく実際的著述ですが、教育者に対し、具体的な指針を与えました。
著者は、本書を著述した理由を序文で「朋友ヨリ教授ノ方法二関渉スル…箴言訓語(しんげんくんご)ヲ請求セラレシニ因(よっ)テ著述セルモノニシテ…其(その)請求ニ応ズルニ学校ニ在リテ行フベキ義務ト学校中演習ノ方法トニ就(つい)テ多少解シ易キ書籍ヲ作ルハ衆人ノ為ニ最モ有益ナルベキヲ想起シ…此書ヲ編輯シテ其意ヲ達スルコトヲ得タリ…」と述べ、更に本書の読み方について「固(もと)ヨリ教授ノ方法ヲ完全ニ指示セリト云フニ非(あら)ズ又(また)此書ノ論説方法ハ必ズ採用スべシト云フニ非ズ何トナレバ教師タルモノハ決シテ徒(いたずら)ニ諂媚(とうび)シテ人ノ為(な)す所ニ模倣スベキモノニ非ズ又全ク他人ノ轍(てつ)ヲ踏(ふみ)テ其(その)業ヲ固執スベキモノニ非ザルガ故ナリ…」と注意をしています。
本書の内容は書簡形式で書かれ、22書で構成されており、「教師当然ノ職掌」「忍耐」「愉快・労作ヲ好ム事等」「職務ヲ改正スベキ方法」「学校ノ規律及ビ其管理法「父母ノ助成」「修身ノ教誨(きょうかい)」「口授教法」「諳誦」「物課」「読書」「綴字」「習字」「文法」「作文」「地理学」「数学」「記簿法・生理学・図画学・歴史学・歌学」「講義・治国ノ法・自然ノ学習・言語ノ学習・雑事ノ了解」「小学校」「習慣」「学校ノ試験及ビ褒賞(ほうしょう)」と多岐にわたっています。なお、付録に「学校事務ノ手薄(しゅぼ)」「教師ノ守ルベキ規則」「教師ノ己ヲ省察スル疑問」「書生ノ守ルベキ規則」「教師生徒ノ共ニ遵守スべキ規則並ニ条例」「教師ノ為ニ有益ナル書籍」「学校書庫ニ備フベキ書籍」「学校書庫ノ規則及ビ条例」「学校器具、学校格言及ビ記録等」と実際的事項を取り上げています。
この中で第一書に著者の教師観、児童観、教育観が端的に述べられています。それは「凡ソ教育師(きょういくし)タルモノハ児童ノ柔和ニシテ感触シ易キ心意ヲ善道ニ導クコトノ委託ヲ受ル職人ニシテ其児童ヲ鋳成(しゅせい)教育シ真正(しんせい)ニシテ有用ナル知識ヲ其頭脳ニ充塞(じゅうそく)セシメ課学ノ光明ヲ以テ之ヲ照輝(しょうよう)シ修身上ノ真理ニ於テ充分ナル光線ヲ放チ出シ以テ其心志ヲ潔白高尚ニ做(な)シテ…」と述べている点です。