館蔵資料の紹介 1992年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1992年 > 家庭教育-文部省製作幼童用教材
(上)「木梃」
(右下)「オードゥボン」
(左下)「出精する家内」 明治6~7(1873~4)年 35.2×24.0cm
明治期の家庭教育は、親がよい環境を作り、感化によって、子の心身を育み、やがて、成人しての社会生活に役立つ「しつけ」を施しておくというものです。従って、同時に、親の教養を高める必要にも迫られていました。
明治5年に頒布された「学制」に見られるように、新政府は国民皆学と教育の近代化を打ち出し、空論に陥るより実学を尊重し、西洋の文化に「追いつけ追い越せ」をモットーに教育普及に務めました。一方で、古来よりわが国の教育理念としてきた儒教主義は根強く引き継がれ、徳育面に影響し続けました。
こうした新政府方針の一環として、ここに掲載の綿絵などが製作されました。明治6年の『文部省報告』や『文部省布達』によると、幼童の家庭教育のために、各種の絵画玩具を製造し、入用の向きに払い下げる…これらによって幼童の智慧と徳性を発揚し、就学後の就業を速やかにしたいので、軽視せず、意を用いて、親たちはよろしくここに注意されたい、という主旨が述べられています。
内容からみると、当時は子どもの発達段階が考慮されていたとは思えず、就学前の子どもには程度が高いものがほとんどです。しかし、親が咀嚼(そしゃく)して与えたり、子どもに絵で直観的に理解させたりして、世のいろいろな事象や西洋文明に関心をもたせる効果はあったと思われます。いずれにしても、当時の教育の模索と普及に対する熱意がよく伝わってきます。内容は家職や農業、林業などの技法、徳育、数理、物理に関するもの、西洋文明国の偉人や科学者などの功績や苦心談等、合理的な考え方と徳性の発揚を啓蒙したものです。ここに揚げる図版はその一例です。
出精する家内(図版)
機織りに精を出す母親を見習って子は勉強に励み、長女は赤ん坊を守りながら勉強するなど、当時の理想的な家庭を示しています。
オードゥボン(図版)
米国の禽学者オードゥボンは多年、描き貯めた禽鳥の粉本をねずみに傷められたが、刻苦勉励し、再び、禽鳥を捕らえて模写し、以前にもまして立派な禽鳥図鑑をつくった美談を細介しています。
木挺(図版)
天秤の原理をシーソーで解りやすく解説しています。