館蔵資料の紹介 1992年
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(上)幼稚の戯れ
明治28(1895)年 橋本(楊州)周延(1838-1912)
24.2×35.4cm
(左)幼稚苑とりあい
明治38(1905)年 橋本(楊州)周延(1838-1912)
37.3×74.4cm 幼稚苑シリーズ12枚のうちの1枚
「三つ子の魂、百迄」とは先人の教えで、人それぞれの性質は3歳までの生活体験によって決まるといわれており、幼児期の生活の重要さをよく伝えています。
この時期の子育ては、特に躾(しつけ)の面では、当時の身分制や階級制による人間観や大人の都合主義によって大きく左右されました。しかし、遊びは、武家の子にとっても庶民の子にとっても楽しいものであり、自由に自己表現できる場でありましたから、知情意体にわたって、人間的成長に大きく影響したと思われます。この意味からも、幼児の生活の本質は遊びにあるといえます。
幼稚の戯れ(図版・明治28年)
この錦絵は当時の幼児の無邪気に遊ぶ様子が多角的に捉えられており、目で見る記録として貴重です。母親におんぶやだっこをねだる幼児の様子から親子の温いふれ合いが見られ、祭のおみこしかつぎや角兵衛獅子、ままごと遊び、子守り、髪結いなどからは、当時の風習や大人を真似て学ぶ子どもの姿が窺えます。また、まりつき、羽根つき、「子をとろ」遊びなどで、体の機能が伸ばされたり、仲間との連帯感が芽生えたりしたのがよくわかります。その外に、金魚や猫の飼育や、もののうばいあい、けんかなどの様子が描かれ、幼児期の心情的体験の一端が見られます。
幼稚苑とりあい(図版・明治38年)
とり組む幼児の声やでんでん太鼓の音が聞えてくるようです。
なお、作者橋本(はしもと)〔楊州(ようしゅう)〕周延(ちかのぶ)は本名を直義といい、周延、楊州は号です。彼は明治風俗画のほか、徳川大奥のシリーズ絵などで知られ、当時の代表的浮世絵師の一人で、特に美人風俗画に力を入れましたが、描く領域は広く、数量の多さでも知られています。