館蔵資料の紹介 1992年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1992年 > 子どもと年中行事
(左)子供遊端午の気生
明治元(1868)年
三代歌川廣重
35.8×48.5cm
(右)幼稚苑 上:おひなさま 下:鯉とと
明治38(1905)年
周延
24.2×35.4cm
江戸の後期は泰平の世のおかげで、美しい版画や錦絵、子ども向け遊具などが多く市販され、これらは当時の子どもの有様を知る貴重な手掛りとなっています。また、明治期には文明開化、国民皆学の波に乗って、その啓蒙のため、視覚に訴えた錦絵が広く普及しました。
毎年催される伝承的行事は、正月、2月の初午(はつうま)、3月雛祭、5月端午の節句、7月七夕祭、8月月見、9月菊の節句、他に神社やお寺のお祭など豊かで、子ども達は頂き物もあり、大きな楽しみでした。単調な日々の生活にリズムと活力をもたらす行事は子どもの人間形成に大きく影響しました。
子供遊端午の気生(図)
節句当日の男児の気構えが見えます。裕福な家でしょう。 菊水の幟(のぼり)や鯉幟、加藤清正の人形や鐘馗(しょうき)さん(魔除け疫病払いの神)を描いた幟と人形などが飾られています。その家の母親が「皆さんあがってお遊(あそび)な わたしはとなりへ行(いく)から留守をたのみます」と、子ども達を温かく迎え、信頼感を示しています。これに応え、矛(ほこ)を持ち、ビールびんの大砲車を曳いたリーダー格の子が、「うしろの子立(たち)、を(お)いらとまつさんとがき大正(だいしょう)に成(なっ)て外に入(いる)からだいじょうぶだよ」と皆に声をかけ、もう一人の年上の子は小さい子に対して「おいぼちゃんの内へお上(あが)りな そふ(う)して を(お)のぼりと人形をおもらい」と教え、面倒をみています。一方、「みながのぼりや人形をもらって行(いっ)ておしいものだな」と悔しがっている年上の子もいます。その家の子は皆の様子を見て、「おいらもとうくへ 遊(あそび)にいこう」とつぶやいています。
この絵からも当時の子ども仲間の暗黙の約束事、先輩・後輩関係、近所とのつき合い、 連帯感など人間関係のバランスがよく窺えます。また、こうした行事によって、晴れやかな気分の中で、それぞれの立場をわきまえた行動を身につけ、同時に、大人を交えた公の場のあり方を知ってきたといえましょう。
幼稚苑 おひなさま・鯉とと(図・幼児の12ヶ月を描いた絵のうち2枚)
幼児を持つ親の愛情がよく伝わってくる絵です。