館蔵資料の紹介 1990年
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『千羽鶴折形』
寛政9(1797)年刊
魯縞庵作・秋里籬島編著
(左)表紙 (中)出来上がり図と展開図・狂歌 (右)編著者と絵師の印
写真は、現存する世界最古の、遊戯折り紙の本として知られている『千羽鶴折形(せんはづるおりかた)』です。
内容は、1枚の紙から連続した鶴を折り出すための用紙の切り方展開図と、その完成図49種類を紹介し、さらに、それぞれの連続した鶴の形態に粋な銘をつけ、その銘に因んで狂歌を詠み込んだものです。なお、切りくずを出さないで作ることが文中に記してあり、折り紙の特質を生かした作者の工夫と技工の卓抜さを感じさせます。
本書は、寛政9(1797)年、京都の吉野屋為八刊行のもので、現在残存している冊数は極めて少なく、稀覯中の稀覯本です。この本は当時評判がよかったようで、3年後の寛政12年に京都の吉野屋のほか、江戸や大坂の5店連名で再版されています。本書には、奥付けに刊行者名が明記されているほかに、編著者のものと思われる「籬島」という名の朱印と、挿絵担当の絵師のものと思われる、風流人の姿を小さく描いた絵の朱印が、序文最後に直接押してあります。これらの印は初版本にのみ見られます。折り紙の考案者については、本文の中で「勢陽九花魯縞庵(せいようくはなろこうあん)のあるじ」であることが紹介されています。この人は、三重県桑名市の長円寺(ちょうえんじ)の住職で魯縞庵義道(ろこうあんぎどう)(1759~1831)といい、当時の桑名の地誌『久波奈名所図会(くわなめいしょずえ)』(1802年刊)や『桑府名勝志(そうふめいしょうし)』の編著者として知られた才人です。義道は、この地誌を著すのに、当時、著名な『東海道名所図会(とうかいどうめいしょずえ)』(1795年刊)に大いに刺戟を受け、その編著者であった秋里籬島(あきさとりとう)と交流があったと思われます。これが縁で、著述家の籬島は、義道の作った連鶴に自作の狂歌を添えて本書を編したことが窺(うかかえ)ます。「籬島」の朱印は編著者としての印(しるし)といえましょう。
また、本書の挿絵は、『東海道名所図会』の挿絵をかいた数名の絵師のうち、竹原春泉斎(たけはらしゅんせんさい)の絵に見られる、やわらかく自然な線の流れや人物表現の特徴から、彼の作画であることが分ります。従って、絵の朱印は彼のものと思われます。
本書は人物の表記になぞめいた面がありますが、折り方についても、その過程は一切示されておらず、展開図と出来上り図が示してあるのみで、多分になぞ解きめいたものもあるようです。現在、この折り形の完全復元を試みた折り紙作家の笠原邦彦氏の完成作品が、当教育博物館に収蔵されています。