みなさんはオノマトペということばを知っていますか。オノマトペということばにピンと来なくても、「わんわん」とか「ぴょんぴょん」といった子どもがよく使うことばのことだと言われれば、子育て中の方にとってはなじみ深いはずです。
オノマトペは私たちの感覚やイメージとより直接的に結びついている種類のことばです。具体的には、「わんわん」などのように、主に実物の音をまねしたことば(擬音語)や、「ぴょんぴょん」などのように、直接の音をまねしたわけではないけれど、感覚やイメージにぴったりのことば(擬態語)が含まれます。
オノマトペが興味深いのは、ことばの音を聞いただけで、そのモノの手触り・重さ・温度・動作のようすなどが直接伝わってくるという不思議さにあります。その不思議さにピンとこない方は、まず下の二つの映像をご覧ください。
では、質問です。「のすのす」しているのはどちらでしょうか?もし2〜3歳のお子さんがいらっしゃる方は、お子さんにも聞いてみてください。おそらくほとんどの方が、ウサギの映像のほうを選んだのではないでしょうか。「のすのす」という耳慣れないオノマトペでもそれに適する動作を私たちは選べるのです。
日本語を話す大人の場合、日本語の「のしのし」になじみがあるのだから、正しいほうを選べて当然、という批判が聞こえてきそうです。しかし、この課題を「のしのし」ということばを知らない2歳児・3歳児、そして外国人(英語話者)に試したところ、やはり偶然より高い確率でウサギの映像を選んだのです(グラフ1参照)。
どうやらオノマトペにはことばと動作を結びつけやすくするちからがあるようです。では実際に3歳のお子さんに、知らない動作と知らないことば(新奇語)を学ぶ機会を与えたとき、オノマトペのほうが学びやすいという傾向はあるのでしょうか。それを調べるため、@イメージぴったりのオノマトペのことばを教えられる条件、Aイメージに合わないオノマトペのことばを教えられる条件、B無意味な音声の組み合わせのことばを教えられる条件、の3つの条件で新しい動作の学ばれやすさを比較しました。
具体的には、まずウサギの映像だけを見せ、その動作を名付けます。@の条件なら「のすのすしている」Aの条件なら「ばとばとしている」Bの条件なら「チモっている」というあんばいです。その後、動作が同じで動作をしている動物(動作主)が変わる映像と動作が異なって動作主が同じ映像を並べて見せ、「のすのす/ばとばと/チモっているのはどっち?」と尋ねます。もし、動作と新しいことばを正しく結びつけて理解するなら、動作主が変わったことに惑わされずに、同じ動作をしている映像を選択するはずです。
調査の結果、@のイメージぴったりのオノマトペのことばを教えられる条件に参加した3歳児のみが、偶然より高い確率で正しい映像を選びました。AやBの条件では、クマの映像を選択する子とウサギの映像を選択する子は半々の比率にまで落ち込んでしまいます(グラフ2参照)。子どもは教えられたことばがイメージに合っていない場合や無意味音声の場合には、教えられたことばをウサギに対応付けていいのか、ウサギがやっている動作に対応付けていいのか分からなくなってしまうようです。
オノマトペに見られる、音そのものが持つ感覚・イメージとの直接的な結びつきは、音象徴性と言われます。オノマトペに含まれる音象徴性がこどもたちのことばの習得をどのように助けているか、その役割はまだまだ多くの謎に包まれています。
参考文献:Imai, M. Kita, S., Nagumo, M. & Okada, H. (2008) Sound symbolism facilitates early verb learning. Cognition 109, 54-65.