Research Question
個性を生み出す脳の働き
ー多様性の理解からWell-beingへー
これまでの脳科学研究は、対象となる事象に対して、人によって働く脳の領域が違うのではなく、“脳は同じように働く”という前提で研究が進められてきました。
それは、脳科学研究が視覚や聴覚といった感覚系の機能を対象に研究が始められたことにあります。例えば、目の前の“縦の白い直線”を脳でどのように処理をして“縦の白い直線”と認知できるのかという研究であれば、“脳は同じように働く”と仮定しても問題ありません。しかし、ある人が好きな音楽をみんな好きとは限りませんし、食べ物も好き嫌いがあります。学問でも、文系型、理系型といわれるように、向き不向きがあったりします。
私たちは、生活の中で様々な情報を記憶し、その記憶を使うことで、認知や判断等を行います。この記憶は、単なる言語的な記憶だけでなく、時間的情報を含んだ環境変化に伴う生物学的な記憶として理解する必要があります。例えば、遺伝的に決定される身体的特徴や感覚の感受性といった先天的に決定されるものもあれば、生活習慣、食習慣、加齢、体内環境など環境変化を伴う記憶も含まれます。また、塩基配列の変化を伴わずに遺伝子の発現を環境に適応させて調節する、後天的な仕組みであるエピジェネティック修飾もこの記憶に含まれます。つまり過去の経験を全て含む生物学的な記憶であり、木の年輪のようなものと理解するとわかりやすいかもしれません。一卵性双生児であれば遺伝的に同じ人間は存在するものの、一人たりとも環境的に同じ経験をしている人間はいないので、この記憶も人それぞれ異なります。
私たちは、認知をする際に記憶を使います。それは、未知のことでも、既知の情報を使うことで、情報量を減らして認知することができるからです。そのため、例えば同じものを見ていたとしても、解釈が個人によって違うということが起こりえるのです。つまり、この経験的な記憶の積み重ねにより、個性が生み出されるのです。
我々の研究室は、個性の形成に注目しています。脳イメージング、認知神経科学、社会心理学などの手法を用いて、個性を生み出す脳の働きを調べています。科学的に個性を理解することで、一人ひとりの多様な幸福(Well-being)に貢献できる科学の実現を目指しています。
How the Brain Creates Individuality
Contribution to Well-Being from Understanding Diversity
Neuroscience research has been based on the assumption that everyone activates the same brain regions for the same event. This assumption means, for example, that everyone activates the same brain regions for the response of the visual cortex to white vertical lines.
We store various information and use it to make cognitions, judgments, etc. This Memory needs to be understood as a biological memory that is both linguistic and contains temporal information related to changes in the environment. For example, Memory includes genetically inborn determined physical characteristics and sensory sensitivities. On the other hand, some are related to environmental changes, such as lifestyle, eating habits, aging, and internal environment. Memory also includes epigenetic modifications, i.e., acquired mechanisms that adapt and control gene expression to the environment without changes in nucleotide sequences. In other words, MEMORY consists of all past experiences. It may be easier to understand that it is like the annual rings of a tree. Identical twins are genetically similar, but since they never experience the same environment twice, there are individual differences in this Memory. Memory for cognition and judgment is the principle that creates human diversity.
Our laboratory focuses on how the brain forms identity using brain imaging, cognitive neuroscience, and social psychology. The formation of individuality is the principle of making human diversity. By understanding individuality scientifically, we aim to realize a science that can contribute to each individual's diverse well-being.