館蔵資料の紹介 2022年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2022年 > 伊藤蘭嵎筆蹟
紙本墨書 掛軸装 江戸時代中期
縦115.2×横25.7cm
伊藤蘭嵎(いとうらんぐう)(1694−1778)は京都出身の儒学者で、名は長堅(ながかた)、字は才蔵、蘭嵎は号。古義学を提唱し、私塾古義堂を興した伊藤仁斎(じんさい)(1627−1705)の五男として生まれた。少年時代に父を失い、長兄の伊藤東涯(とうがい)(1670−1736)に育てられる。
蘭嵎は博学で、五経の研究も熱心に行い、また文筆にも長けていた。1731(享保16)年、紀州藩に儒者として仕え、京都と和歌山を往復して教えた。初めて藩主の前で儒学を講じる際、しばらく黙っていた蘭嵎は、座布団に座った者に対し聖人の教えは説けない、と切り出し、これを聞いた一回り年長の藩主徳川宗直(1682−1757)は、慌てて座布団を外し、その教えを受けたという。
東涯が没すると、藩から10年間の暇(いとま)をもらって京都に戻り、古義堂を継いだ幼い甥の伊藤東所(とうしょ)(1730−1804)の後見役として、家学と家塾を支えた。
「德榮國華(徳の栄えは国の華たり)」とは、中国の歴史書『春秋左氏伝』の外伝『国語』「魯語上」の一節である。『春秋』を含む五経に通じた、蘭嵎らしい出典の選択といえよう。