館蔵資料の紹介 2022年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2022年 > 冷泉為村筆蹟
和歌懐紙 紙本墨書 掛軸装
1757-69(宝暦7-明和6)年
縦40.6×横55.5㎝
常緑の松に言寄せ、春(新年)に弥栄(いやさか)を寿(ことほ)いだ和歌懐紙(かいし)である。読み下すと、「松に添へて栄色(えいしょく)を詠める和歌 民部卿(みんぶきよう)為村 萬代(よろずよ)の かぜをつたふる 春にあひて めぐみいろそふ まつのことのは」となる。
作者の冷泉為村(れいぜいためむら)(1712−74)は、江戸時代の公家である。冷泉(上冷泉)家は、藤原定家(ふじわらのさだいえ)(1162−1241)の子孫、歌道の家柄で、同家の屋敷は現在も京都御所の北にある。為村が民部卿であったのは、1757−69(宝暦7−明和6)年であるから、この間に詠まれた歌になる。
和歌懐紙の書式には、様々な決まりごとがある。原則は詠み人が臣下の場合、詠題に次いで署名をする。歌は基本的に3行と3字で記し、最後の3文字は万葉仮名で書く。
この懐紙に見られる、やや横長で丸みを帯び、線の肥痩(ひそう)が極端な、あまり連綿(つづけ字)とならない書体は、定家独特の癖(くせ)字で、定家様(ていかよう)と呼ばれる。本人は悪筆と自覚していたようであるが、後世、高名な歌人を慕って、定家様を愛好する者も少なくなかった。為村も、先祖に倣(なら)ったのであろう。