館蔵資料の紹介 2002年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 2002年 > 獅子頭
制作時期不詳(近代)
滋賀県大津市にて採集
本体高22.1×幅24.5×奥行21.0cm
正月の風物詩の1つである民俗芸能に、獅子舞がある。賑々しい囃子にのって舞いながら家々を練り歩く姿は、いかにも新年のめでたさを醸し出している。
獅子舞には2系統あり、いずれも獅子頭をつけて舞うのは共通するが、1つは中国伝来の伎楽(ぎがく)・舞楽の流れを引くもので、布でできた胴の中に2人以上の人間が入って舞うタイプである。もう1つは風流(ふうりゅう)の系統のもので、1人立ちの獅子数頭の組合せなどで舞うものである。なお、シシの音が通じることから、頭が獅子ではなく鹿(かのしし)や猪(いのしし)の場合もある。岩手県奥州市の獅踊(ししおど)りや越後の角兵衛獅子(かくべえしし)などは、これに含まれる。
前者の2人立ちの舞については、遺物として正倉院に師(獅)子の伎楽面が残っており、また藤原通憲(?−1159)の著作とされる『信西古楽図(しんぜいこがくず)』に舞姿が描かれているが、今日の獅子舞とは随分と異なり、むしろ中華街などで舞われている中国風獅子舞のイメージが強い。一方、室町時代に成立した『三十二番職人歌合絵巻』では、二番左方に師(獅)子舞を取り上げており、我々に馴染みの獅子舞姿が描かれている。このことから既に室町時代には、宮中等の舞楽から派生する形で獅子舞が誕生していたと考えられよう。
獅子舞は魔除けのために演じられることから、次第に獅子頭自体が神格視され、大切に扱われるようになってきた。当館蔵の獅子頭は、2人立ち獅子舞に使用されたもので、大阪市内の業者の制作であるが、制作年代・使用地については不詳である。ただ、一部に合成樹脂製の材料が使われており、さほど古い時代のものではなく、また、滋賀県大津市で入手した資料であることから、恐らくはその周辺で使用されていたのではないかと推定されるのみである。
面は木製で朱漆が塗られ、顔の要所は黒漆や金漆で彩っており、たてがみと耳には黒い毛が植えられている。面の内部から紐を引くと、耳が動くようになっている。また口は、残念なことに左顎の関節部が破損してしまっているが、パクパクと開くようになっている。獅子舞の獅子に噛みつかれると無病息災になるとされ、この獅子も恐らく多くの人の頭をくわえてきたことであろう。