館蔵資料の紹介 2001年
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「顔面把手(破片)」
縄文時代中期中葉
東京都町田市本部台遺跡周辺採集
現存高 6.1×現存最大幅 9.4cm
鼻筋までつながる弓状の眉、目尻の切れあがったアーモンド形の目、上を向いた豚のような鼻に丸いおちょぼ口。縄文時代中期中葉の勝坂式土器に散見される、顔面状の装飾に特徴的な顔つきである。この装飾は、土器の把手(とって)につけれることが多い(把手といってもつまみではなく、土器の口縁につけられた突起状の装飾のことである)。まれに顔の下に体を表現しているものや、顔面自体が土器の胴部に附される場合も見られる。こうした顔面把手の分布の中心は、山梨・長野両県にまたがる中部高地であるが、本例のように関東地方南西部でも、ときどき出土することがある。
顔面の附される向きは土器の口を背にして外を向く場合と、内側を向くものとが見られるが、本例は、土器の口縁部に外向きに附けられたものである。残念ながら顔面の左半部周辺のみの破片のため、土器の全体像は分からない。顔は口の表現を欠き、目の上下には入れ墨あるいはフェイスペインティングされた様子を表現するのか、平行沈線が引かれている。また側頭部には耳飾か、髪の毛を束ねた髷(まげ)と思われるモチーフが描かれている。
この種の顔面装飾をもつ把手を「人面把手」という場合もある。しかし、果たしてそこに表現されているのは人の顔なのであろうか。顔面把手の中には、十文字の目、鼻孔が1つ、兎唇のような口に表現されている例もある。また、驚愕あるいは苦悶の表情をしていたり、顔面表現を省略したのっぺらぼうの場合もある。こうした「常ならざる顔」を見せることから、これは人ではなく、神・精霊などの姿とみる説もある。顔面装飾の附く土器は、その当時の土器の中でも、ごく一部に過ぎない。顔面が神・精霊の表現ならば、例えばそれらへの供え物を入れた土器であったのかもしれない。あるいは当時すでにある程度の植物の栽培・管理が行われていたとみるならば、成長や実りに超人的な存在の力を必要とするため、植物の種の保管容器として使用していたと推定することもできる。
このように顔面表現をもつ土器は、通常の煮炊きに用いるものではなく、特殊な用途に使用する特別な土器であった可能性が考えられる。