館蔵資料の紹介 1999年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1999年 > タノカミ(田の神)
今回紹介するのは田の神の像である。鹿児島県地方で採集されたもので、高さ31.3cm、幅19.1cm、奥行12.6cmを測り、凝灰岩で作られている。この種の神像は18世紀初頭頃に出現し、ムラごとに水田のほとりに立てて祀っていたものである。本例には紀年銘はないが、明治時代に製作されたものと推定される。米の研ぎ汁によって顔を白く塗り、その後眉と目を墨で、口と襟を紅で描いている。右手に杓子を持つのが、南九州に見られる田の神像の特徴である(左手に持つのは椀か)。
田の神とは、その名の通り稲作農耕の神で、全国的に広く信仰されている。東日本では恵比須と、西日本では大黒天と習合しているため、本例も大黒天像をほうふつとさせるが、田の神は漁業神の恵比須や福の神の大黒とは別の神とされている。稲作のサイクルに従い、春に山から降りてきて、秋の稲刈りののち山に帰るというように山と田・里を去来し、里人は春と秋にその送迎を行う。これが稲作の予祝・収穫のための儀礼・祭祀に結びついている。また儀礼の際には田神講と呼ばれる行事もあり、ここでは高盛り飯を食べるなど、講中が一堂に会して飲食をしたりした。稲の生育を見守り、豊作をもたらす田の神の起源・正体とは、各家々の祖霊ではないかと考えられている。