館蔵資料の紹介 1999年
玉川大学教育博物館 > 館蔵資料の紹介 > 1999年 > 梶一獄筆『禽譜』
『禽譜』(部分)
梶一獄筆
紙本墨書彩色・巻子装
安政4(1857)年
縦32.3×横706.0cm
江戸時代は博物学の時代と呼ばれるほどに、多くの人が動物、植物、鉱物などに関心を寄せた時代でもある。当時の博物学は薬用となる自然物を調べる本草(ほんぞう)学から発展したものといえるが、言葉だけでは対象となる事物の情報を伝えるのに限界があるため、必然的に図をつけるようになった。また、研究するためには観察による確かな描写が基本となる。そのため各人の描写の腕前が競われた結果、江戸時代には華麗な図譜が数多くつくられたのである。
今回紹介する資料は、安政4(1857)年に梶一嶽という人物が描いた鳥類図譜である。描かれている鳥はコマドリ、ヤマガラ、クイナ、キツツキ、スズメ、コジュケイ、ブッポウソウなど87種で、各図には鳥名をはじめ、描いた日付が書かれているものもある。なかには「蝦夷産」「房州産」「八丈島産」「琉球国渡来」という記載のものやブンチョウ、ソウシチョウ、オウムなど南蛮船や唐船によって渡来した鳥も多く描かれている。
この図譜で特徴的なことは、枝に止まった状態のものだけでなく、飛んでいる姿や雌雄の違い、さらに嘴(くちばし)、脚、翼などの部分図をつけて構成されていることであろう。それに加え、描写や色使いもていねいであるため、当時の優れた博物図譜の中でもひけをとらない出来映えになっている。